第88話 ホームレスに優しくされる(小学校の校長視点)

 山田はある場所で長蛇の列を発見した。


「あれは何でしょうか?」


「わかりません。すぐそばまで行ってみましょう」


 山田、高岡は二人で、行列の出来ているところに向かった。満足な食事を食べていないこともあって、歩くためのエネルギーすら残されていなかった。それでも必死に、行列の出来ているところまで歩いた。蛇口から水の出なくなった水道から、最後の一滴を絞り出すかのように。


 長蛇の列ができているところでは、支援物資などが渡されている。ホームレスに対する支援団体だと理解した。


 50くらいの男に、声をかけられる。髭を長期間そっていないのか、顎のあたりは5センチほど伸びていた。


「あんたは誰だ? これまで一度も見かけなかった顔だ」


 ホームレスはテレビを持っていない。それゆえ、山田がどうなったのかを知らないようだ。


「顔が明らかにやつれている。何かを食べさせなければ、危険な状態だ」


 ホームレスの一人は、ペットボトルの水を差しだしてきた。


「俺の水をやる。これを飲んで元気を出せ」

 

 完全に見下していた人たちに、手を差し伸べられるとは。自分たちの落ちぶれた状況を、まざまざと感じることとなった。


 普段ならプライドで断るところだけど、今回はそうばかりはいっていられなかった。ホームレスから水をもらい、一気飲みした。


「ありがとう・・・・・・」


 人の優しさに触れたことで、無意識のうちにいってしまった。知らず知らずのうちに、優しさを求める人間になったのを悟った。


 他のホームレスが、高岡に水を渡した。


「あんたはこれを飲みな。水さえ飲んでいれば、人間は生きていけるからな」


 高岡は水を受け取ると、500ミリリットルを一気飲みする。


「ありがとうございます」


「かまうこったねえぞ」


 地上に住んでいる人たちよりも、優しさを持ち合わせている。落ちるところまで落ちたとき、本物の優しさを手に入れられるのかなと思った。


「炊き出しはうまいぞ。あんたたちも食っていけ」


「心も体もポカポカになるんべ」


 山田、高岡の二人は列に並ぶ。落ち込んでいるからか、ホームレスの背中はとても大きく見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る