第87話 すべてを失った二人(中学校時代の校長視点)
山田は居場所を失い、職場を退職したと耳にした。大多数の前において、一人の人間など無力である。
服はボロボロ、強烈なにおいを発していることから、ホームレス生活を送っていると推察できる。小学校の校長にまで上り詰めた男が、住む家を失うなんて。作り上げるのは時間がかかるけど、失うのは一瞬だ。
高岡もおそらく同じような境遇に置かれている。妻に自宅を売却されてからは、ホームレス生活を余儀なくされている。中学校の校長がホームレスなんて、前代未聞だ。
山田と二人でラーメン店に入った。
「いら・・・・・・」
店主は誰なのかを知ると、顔をおおいにしかめる。
「あなた方に食べさせるラーメンはありません。すぐに出て行ってもらえませんか?」
ラーメン一杯すら食べさせてもらえないまでに、世間から嫌われてしまうなんて。人間の尊厳をすべて否定された気分になった。
体臭があまりにきついのか、客は鼻をつまんでいた。一週間以上も風呂に入っておらず、同じ服を着たままである。想像を絶する臭いを発しているのは確実だ。
「ラーメン店にやってくるなら、服くらいは着替えてくださいよ。校長をやったのに、そんなこともわからないんですか」
自宅を売却されたときに、服も全部処分されてしまった。着替えようと思っても、新しい服を持っていない。
手元にある現金は30000円前後。これからのことを考えると、服にお金を払うのは厳しい状況。近くにはコインランドリーもないため、洗濯するのも不可能。ボロボロかつにおいを発する服を着続ける必要がある。
小学生くらいの女の子が、父親に連れられてラーメン店に入っていく。同じくらいの孫の命を奪ったものとして、胸はおおいに痛んだ。しっかりと注意を払っていれば、元気な姿を見せてくれていたのに。
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