第86話 世間の目が冷たすぎる(小学校の校長視点)

 住むところを失ってから、一週間が経過しようとしていた。


 不動産会社に足を運ぶも、まったく相手にされなかった。お前なんぞに貸す家はないといわんばかりの塩対応をされる。どんなに頼み込んだとしても、家を貸してくれる気配はなさそうだ。


 家を一生見つけられず、ホームレス生活で生涯を終える。そのことを想像すると、いてもたってもいられなかった。


 不動産業者だけでなく、他の人間も異様に冷たい。人と会うだけで、まるで犯罪者になったかのようだった。


 本日は空模様がよくなかった。雨こそ降っていないものの、時間の問題といえる。雨が降ったときに備えて、雨宿りできる場所を探しておいた方がよさそうだ。傘をさしていたとしても、完全にシャットアウトできるわけではない。


 道端を力なく歩いていると、顔のやつれ切った男に声をかけられる。体臭はかなりきつく、お風呂に入っていないのはすぐにわかった。


「すみません・・・・・・」


 見覚え、聞き覚えのある声だったので、誰なのかすぐに分かった。


「あなたは・・・・・・」


 高岡は生徒の無視を容認したことで、マスコミにインタビューをされた。自宅から逃げようとするときに、息子を轢き殺してしまった。ここにいるということは、一時的に釈放を勝ち取ったようだ。


「ご無沙汰しております。高岡といいます」


「こちらこそお世話になりました。山田といいます」


 高岡の姿を見ていると、現在の自分と重なっていた。みているだけで、胸を締め付けられるかのようだった。


「山田さんはこんなところで、何をされているのですか?」


「散歩ですよ」


「奇遇ですね。私も散歩です」


 高岡のやつれた顔を見て、家から追い出されたことは察した。こちらと同じく、ホームレス生活を送っている。


「ゆっくりとできるところで、お話をしませんか?」


「そうですね。ゆっくりとできるところを探しましょう」


 100メートル先には、おんぼろなラーメン店を発見する。


「あそこにしましょうか」


「そうですね。あそこでくつろぎましょう」


 山田、高岡は力ない動きで、ラーメン店に向かった。生きる希望をすべて失い、抜け殻になってしまったかのようだった。


 雨がポツンぽつんと降ってきた。精神的に参っているらしく、傘をさす気にもなれなかった。

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