第85話 閑古鳥のなく教室(翠編)

 80パーセントほどの生徒が退学し、クラスの人数は一桁となった。琴美、詩織が在籍していたとしても、二桁には届かない。


 教室に残っているのは、無視以外のいじめには関与していない生徒だけ。机に悪口を書きこんだことがある者はすべて、退学もしくは他の学校に転校していった。いじめる快感を覚えてしまったら、元に戻ることはできないのかもしれない。


 文雄、南の二人組が登校してくる。二人の仲はものすごくよく、無視の件がなくてもつけいるスキはどこにもみあたらなかった。南はお嫁さんになるとアピールしていたけど、本気で結婚しそうな勢いだった。


 二人は自分の席に座る。広いスペースがあるにもかかわらず、席は元と変わっていなかった。親しさを他に見せつけるかのようだ。


「みなみな、体育が楽しみだな」


「うん。二人三脚をやろうね」


 文雄と二人きりで、二人三脚を走る。その場面を想像するだけで、心の中はおおいにポカポカした。


 文雄に対する想いは、はっきりと残っている。彼さえよければ、親しくなりたい。


 人数の減った教室に、「アイドルちゃん」が入ってきた。


「みなさん、おはようございます。今日も張り切っていきましょう」


「アイドルちゃん」は文雄、南の方に目を向ける。他の生徒については、眼中にないのかなと思った。


 いじめの対応をしていたときに、「アイドルちゃん」に対するイメージは大きく変わった。生徒の前では元気を装っているけど、心の中に大きな闇を抱えている。正体についてはよくわからなかった。


 人間に対する好き嫌いもはっきりしている印象。好きな生徒にはひいきするけど、嫌いな生徒は徹底的に叩き潰す。翠にとって、もっとも脅威になる教師といっても過言ではない。よほどの用事がない限り、声をかけるのは避けるべき存在といえる。

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