第83話 自宅はどこ?(中学校時代の校長視点)

 高岡は一時的に保釈され、自宅に戻ることを許された。


 刑務所に拘束されていたからか、顔は完全にやつれ切っている。安らぎを感じられるマイホームで、調子を取り戻したいところ。


 自宅に戻ると、一枚の紙が貼られていた。用紙を確認すると、「売却済み」と書かれている。高岡は状況を理解できず、家の前に棒立ちしていた。


 高岡のところに、元妻がやってきた。保釈されたのを知ったときから、こうなるのを理解していたかのようだ。


「息子を轢き殺してからというもの、周囲に罵倒される日々が増えました。ここに住むのは難しいと判断し、売却することにしました。私の名義なので、あなたの許可は取りませんでした」


 家は妻名義だけど、勝手に売るのはモラル違反だ。


「そんなことは許されるはずないだろ。家を取り戻してこい」


 妻は大きな欠伸をする。


「自分でやったらどうですか。家を取り戻すためには、数千万はかかると思いますよ」


 退職金で老後を送る計画を立てていたため、貯金をほとんどしていなかった。家を取り戻すのは不可能だ。


「公務員は住宅補助などがあるじゃないですか。それで何とかしてもらえばいいでしょう」


 妻はそれだけいうと、高岡の前から消えてしまった。目の前に置かれた状況を受け入れられない男は、呆然と立ち尽くした。


 高岡の所持金は50000円。お金を派手に使うタイプなので、一週間以内になくなるかも。荒れた未来のことを考えると、刑務所にいたほうがマシだと思えてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る