第82話 人望がない(小学校校長視点)

 山田は入居の話をするも、すべてで入居を門前払いされる。困っているのだから、話くらいは聴いてくれてもいいのに。


 外は暗くなっていた。住む場所を確保できないと、ホームレスで夜を明かすことになる。


 藁にもすがる気持ちで、元妻のところに連絡を入れる。これまでの恩があるから、一日くらいなら泊めてくれるはず。


 3コール後、妻は電話に出た。


「無職犯罪者さん。ご用件は何でしょうか?」


 無職犯罪者という言葉は、心に大きく突き刺さった。


「住むところがなかなか見つからないんだ。今日一日だけでも・・・・・・」


 妻は大きな溜息をついた。


「そういうことですか。固くお断りします」


 校長は泣きそうな声で、元妻に懇願する。


「今日、今日だけ・・・・・・」


「あなたと会うのは、もうこりごりなんです。こちらの事情を汲み取ってください」


「た・・・・・・」


「あんまりしつこいようだと、警察に通報させていただきます。私とあなたはもう、完全に赤の他人なんです。今後は一切かかわらないでください」


 婚姻届けでつながっていただけの赤の他人。妻の言葉を聞いて、その言葉が真っ先に浮かんだ。


 無情にも電話は切れる。最後の砦を失った男は、地面に崩れ落ちた。


 同じ小学校に勤務していた40くらいの男が、山田の目の前を通り過ぎる。


「久保田君・・・・・・」


 教師は誰なのかを確認すると、憐れんだ目を向けてくる。


「元校長、どうかしたんですか?」


 同僚のときとは、明らかに異なる視線を向けてきた。上司と部下の関係がなくなると、ここまで変わるものなのかなと思わされた。


「ホームレスになりそうなんだ。一日だけでもと・・・・・・」


「私には家族がいます。犯罪者を泊めるわけにはいかないでしょう」


 久保田は小さく息を吸った。


「あなたの元妻は、新しい男と交際を始めたみたいです。相性はすこぶるいいみたいで、来月には再婚すると噂されていますよ。実際のところはわからないですけど・・・・・・」


 元妻が新しい男と再婚する。その噂を知り、大きな衝撃を受ける。離婚届を提出してから、一カ月も経っていない。離婚をする前から、極秘で交際していた可能性は高そうだ。


 浮気の件で妻をゆすって、退職金を奪い返す。山田の頭の中で、新たなプランが浮かんでいた。


 退職金を全部奪うのも違法レベル。弁護士に相談して、取り返せる分は取り返してやる。妻の奴隷には絶対にならないぞ。

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