第77話 逃げたはいいけど(亜美編)
マスコミから逃げたところで、自宅の前で待機されるのは変わらない。状況は何一つとしてよくなっていなかった。
亜美は夕日を眺める。雲一つない真っ青なのに、たくさんの黒い雲で覆われているように感じられた。ストレスによって、目に映るものが変わってしまった。
ちょっとだけ休もうとしていると、マスコミ関係者がこちらに近づいてくる。足は悲鳴を上げており、逃げるだけの余力はなかった。視界のいい場所なので、逃げたとしてもすぐに捕まるだけだ。
「亜美さん、質問に答えてください」
「同級生だけでなく、我々も無視するつもりですか?」
「我々は真実を知りたいんです」
被害者を擁護したいのではなく、加害者を叩き潰したいだけ。彼らの目を見ていると、そうとしか思えなかった。
「私にもプライバシーがあります。詳細については、お答えできません」
「いじめを認めるということでよろしいですね」
「殺すという発言も事実なんですね」
「自分の目的を成し遂げるためには、手段を選ばない女ですね」
一つの言葉を話すと、マスコミは何倍返しをしてくる。黙秘を貫くことが、一番の薬であることに気づいた。
亜美は何を話されても、言葉を返さなかった。マスコミはしびれを切らしたのか、一時間ほどで目の前からいなくなった。
マスコミがいなくなったあと、ゆっくりと自宅に戻る。お金を持っていなかったため、自販機でジュースを買うこともできない。家に着くまでは、喉がカラカラの状態を我慢する必要がある。
体の力をふりしぼって、自宅に戻ったときに大きな変化に気づく。整理整頓したはずの、部屋はおおいに荒れていた。誰かが部屋を勝手に物色したかのようだった。
亜美は財布を見つけるも、13000円を抜き取られていた。家を留守にしていた隙に、スリにあってしまったらしい。
通帳、郵便局のカードは盗まれていなかった。被害を最小限に抑えられたことに、胸をそっとなでおろす。食費をちょっとだけ我慢をすれば、どうにか生活できそうだ。
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