第72話 琴美、詩織からのサプライズプレゼント

 自宅前に二人の女性が立っていた。文雄はすぐさま、琴美、詩織であると気づいた。


「植野さん、朝倉さん、どうしたの?」


 琴美、詩織は鞄の中から、プレゼント用の箱を取り出す。


「ちょっと早いけど、フライングハッピーバースデーなのだ」


「橘君、誕生日おめでとう・・・・・・」


 文雄の誕生日は来週の水曜日。二人は転校しているため、祝うのは不可能だ。


「誕生日プレゼントを準備するために、学校をかけだしたの?」


 琴美は大きく頷いた。


「詩織と話し合って、サプライズプレゼントをすることになったのだ」


「私たちの最初で最後の誕生日プレゼントだよ。素直に受け取ってくれると嬉しい・・・・・・」


「二人ともありがとう・・・・・・」


 誕生日プレゼントをもらえたことで、目頭は熱くなっているのを感じた。


「おかえしをしないと・・・・・・」


「橘君のお返しは結構なのだ」


「本当は欲しいけど、遠いところに行ってしまうからね。お礼をもらうのは、無理だと思う」


 琴美、詩織は遠いところに転校する。休日にちょっと顔を合わせるのも難しそうだ。


 車を自宅の前に止めようとする。文雄、琴美、詩織は駐車するためのスペースを確保した。


 母は車から降りると、買い物袋を3つも持っていた。さすがに大変そうなので、手を差し伸べようと思った。


「かあさん、レジ袋を持つよ」


 母は三つのレジ袋の中から、もっとも重量のある袋を渡してきた。


「文雄、ありがとう」


 母の視線は、琴美、詩織に注がれる。


「琴美さん、詩織さんだったわね。息子がお世話になっています」


 母が頭をさげると、琴美、詩織も頭をさげた。


「短い間でしたけど、こちらもお世話になりました」


「橘君といられて、とっても楽しかったです」


 二人の話についていけないのか、頭にクエッションマークを浮かべていた。


「二人は来週から、別の学校に通うんだ。顔を合わせるのは、今日で最後になると思う」


「文雄と親しくしてくれてありがとう。新しい学校でも楽しくやってね」


 母は二つのレジ袋を持って、家の中に入っていく。文雄は一言断ってから、あとをついていくことにした。


 レジ袋を適当なところに置いたあと、二人のいる玄関に戻った。


「うえ・・・・・・」


 二人はすでにいなくなっていた。文雄はそれを確認すると、家の中に戻った。

 

「文雄、ふたりはどうしたの?」


「もういなくなっていたよ」


「そうなんだ・・・・・・」


 引っ越しの準備などに追われ、こちらにかまうのは厳しい。急にいなくなるのもやむを得ないと思った。

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