第71話 授業が終わった
本日の授業は終了した。
琴美は慌てたように、学生鞄を背負った。
「橘君、いろいろと準備があるから帰るのだ」
詩織も急いでいるのか、鞄をすぐに手に取った。
「私も忙しいから、今日は付き合えそうにない。先に帰宅させてもらうね」
今日で二人とお別れ。最初からわかりきっていたはずなのに、受け入れられない自分がいた。
琴美で印象に強く残ったのは、二人三脚のときの出来事。親しくなっていないにもかかわらず、腰を触るようにいった。セクハラに敏感な世代なだけに、不思議な感覚を受けた。
詩織で強く印象に残ったのは、肌を寄せられたこと。彼女から感じた体温は、強く印象に残った。
中学校時代の教師と顔を合わせたときに、味方をしてくれた。頼もしい仲間が増えたことを、素直に喜んでいた。クラスメイトに無視されてから、赤の他人で味方してくれたのは南だけだった。
幼馴染は元気な声で、こちらに話しかけてきた。
「文雄、一緒に帰ろうよ」
「みなみな、わかった」
南は口元に手を当てた。
「みなみなと呼ばれるのは、久しぶりだね。琴美さん、詩織さんが転校してからは、そのように呼ばれたことはなかったね」
「そうだな・・・・・・」
「文雄、今日はついてきてほしいところがあるんだ」
「みなみな、どこに行くの?」
「牛丼店に行こうと思っているの。文雄は以前に、牛丼を食べたがっていたでしょう」
四人で何を食べるかという話になったとき、牛丼を食べたいといった。南はそのことを、今も覚えていた。
「今日はいいよ。牛丼を食べたい気分ではないんだ」
牛丼を猛烈に食べたいと思ったのは、あのときだけである。自宅に帰ってあとは、牛丼に対する食欲を失っていた。
「そうなんだ。それならぶらぶらと帰ろうよ」
「わかった。そうしよう」
文雄は鞄を手に取ると、南と二人で教室をあとにした。
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