第70話 琴美、詩織のラスト登校

 小学校時代、中学校時代の校長の自宅に、マスコミが突撃してから二週間が経過した。


 小学校時代の校長は今回の件で離婚。若い女性とラブホテルに通った写真を突きつけられ、多額の慰謝料を払う羽目になった。一文無しの状態で、老後を送ることになりそうだ。


 中学校時代の校長は、孫を車で轢き殺した。業務上過失致死傷の罪で、警察に逮捕される。犯罪者としてのレッテルをはられながら、これからを生きていくことになる。


 クラスメイトについては、ほぼ全員に停学処分を下される。無期停学となっていることから、復帰する見込みは低い。これまで以上に、平和な時間を過ごすことができそうだ。


 いじめに関わっていたクラスメイト、いじめを黙認していた教師は強烈な制裁を受けた。あの世に旅立つまで、バッシングを受け続けるはず。文雄の傷は消えないけど、ひとつの区切りになりそうだ。


「橘君、おはよう」


「植野さん、おはよう・・・・・・」


 琴美は来週の月曜から、他の学校に転校する。同じ高校で授業を受けるのは、今日で最後だ。


「橘君、おはよう」


「朝倉さん、おはよう・・・・・・」


 詩織も来週の月曜から、他の学校に転校。親しくなったクラスメイトを、二人も同時に失うのは辛かった。


「短い間だったけど、とても楽しかったのだ。こちらにやってくるときは、よろしくお願いするのだ」


「私もありがとう。また会えるといいね」


 文雄は素直な気持ちをぶつける。


「植野さん、朝倉さん、こちらこそありがとう」


 琴美、詩織とがっちりと握手する。南はその様子を見ており、不満気な顔を浮かべていた。


「文雄、おはよう。朝から何をしているのかな?」


「惜別の握手だよ・・・・・・」


 南は懐疑的な視線を向けてきた。


「そうなんだ。顔がとってもデレデレしているんだけど・・・・・・。Hなことを考えているんじゃない?」


 文雄はこともあろうに、琴美の胸に視線を送ってしまった。南はそれを逃さなかった。


「文雄、どこを見ているの?」


 琴美も気づいていたらしく、胸を隠す仕草を取った。


「橘君は油断も隙もないな。どうしても見たいというなら、好きなだけ見せてやるのだ」


 琴美は機嫌がいいのか、満面の笑みを見せる。文雄もつられるように、笑顔になっていた。


「橘君、すっごく笑顔が増えたね」


 詩織の指摘に、小さく頷いた。


「そうだな。みんなのおかげだよ。ありがとう」


 他人を憎む人生を送ってきた男が、他人に感謝を伝えられるようになった。ほんのちょっぴりかもしれないけど、前を向いているのを感じた。

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