第69話 女子三人で帰宅(南編)

 南は胸に秘めていたことを、二人にぶつけた。


「文雄のことをどう思っているの?」


 琴美は胸を張った。


「ボクにとって大切な親友だ。現時点ではっきりといえることはこれだけだ・・・・・・」


 親友であること、腰を触らせることは、一致しているとはいいがたい。彼女の心の中に、特別な感情があるのは確実だ。


「琴美さん、気をつかっているの?」


 琴美は軽く首を振った。


「あまりに短すぎたから、率直なところはわからない。好きと聞かれたら、そうともいえるし、そうでないともいえるし。答えを導き出せるのは、もうちょっと先になりそうだ」


 南の視線は、詩織に向けられた。


「詩織さんは、どう思っているの?」


「好き60パーセント、親友39パーセント、その他1パーセントだよ」


 好きが一番に来ていることから、恋愛対象とみなしているのかな。親友も39パーセントあるため、はっきりとしたことはわからない。


 その他の1パーセントも気になる。お嫁さんになりたい、という気持ちでなければいいけど。


「文雄が胸や太腿を触ったら、どんな反応を取るの?」


 琴美は究極の質問に、鼻息を荒くした。


「橘君なら、ありがとうとお礼をいうはずだ」


「私も同じだよ。感謝の思いを伝える」


 詩織は落ち着いているものの、はっきりとした意思を示している。南の心の中で、危機感をおぼえた。


 闇に支配されそうになっている女性の肩に、二つの手が乗せられた。


「小学校時代から、お嫁さんになるといっていた人には叶わないよ。どうなるかはわからないけど、心から応援するぞ」

 

「橘君を見ていたら、南さんを特別扱いしているのはわかる。私たちはどんなにあがいても、無駄な努力に終わる」


 南は嬉しいはずなのに、素直に受け取れなかった。


「そんなこと・・・・・・」


 琴美は小さく息を吸った。


「南さんの存在によって、橘君は生きる希望を得ていた。感謝していなかったら、人間性を疑うレベルだ」


「私もそう思う。他の女性に心変わりするのは、ありえないよ」


 文雄に好きという感情を、一方的に押しつけていただけ。彼は本当に感謝しているのか。そのように考えると、いてもたってもいられなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る