第68話 教室内

 文雄が登校したとき、学校には誰もいなかった。これまではどんなに少なくとも、数人は教室にいた。


「橘君、おはよう」


「植野さん、おはよう」


 琴美は散髪を終え、髪の毛はやや短くなっていた。


「橘君、朝のテレビを見たか?」


「ちょっとだけ・・・・・・」


 無視のいじめを容認していた、校長の顔を見たいとは思わなかった。テレビを少しだけ見たあと、電源をすぐにオフにした。


 詩織が教室にやってきた。髪を整えていないのか、うねりが生じていた。


「橘君、琴美、おはよう」


 二人は同時に挨拶を返した。


「おはよう・・・・・・」


 詩織に遅れること数秒、他のクラスメイトが登校してきた。何かにおびえており、覇気はまったく感じられなかった。


「文雄、おはよう」


 南はいつにもなく、元気な声を発していた。


「南、おはよう。テレビを見る限り、いろいろなことをやったみたいだな」


「私は協力を要請しただけだから、どんなことをやったのかは知らないんだ。お父さんは人脈が広いから、序章に過ぎないと思うよ。第二弾、第三弾は必ずあるといっていい」

 

 第二弾、第三弾があると聞き、教室内はざわざわとなった。


「南のおとうさんは、すごい力を持った人なんだな」


「そうかもしれないね・・・・・・」


 南を敵に回したら、同じ報いを受ける。どんなことがっても、この女性の味方であり続けよう。


「時期は決まっていないけど、転校することになった。短い間だったけど、すっごくお世話になった」


 琴美の言葉に、詩織も続いた。


「私も同じだよ。琴美と同じ高校に転校する手続きを済ませた。短い間だったけど、本当にありがとう」


 詩織もすぐにいなくなる。不良のいる学校に通わせるのは、リスクが高いと判断した。親としては妥当な判断といえる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る