第66話 テレビをゆっくりとみる(高校の校長編)

 文雄の通っていた小学校時代の校長、中学校時代の校長はマスコミに質問攻めにされている。その姿を見て、因果応報、自業自得としか思わなかった。


 一人の生徒を頑なに守ろうとしたのは、息子のような人間を出さないため。子供は小学校時代に集団いじめに遭い、それを苦に命を落とした。孫の優しい笑顔を見たものとして、やりきれない思いになった。


 息子のような被害者を二度と出してはいけない。いじめ被害者の家族として、厳しい姿勢で臨むようになった。


 いじめ撲滅に積極的に動いたのは、生徒たちから「アイドルちゃん」の名称で親しまれている先生。彼女も小学校時代にいじめに遭っており、校長の考え方に深い理解を示した。


 無視の事実だけでは、処分をするのは難しい。そのようなことをすれば、横暴などとインターネットで叩かれる。生徒たちの生活ぶりを、静かに見守るふりをした。


 小学校時代にいじめをしていた生徒たちは、生活頭脳指数がチンパンジークラスだった。他人の机に、「死ね」、「殺す」などと書き込めば、どうなるのかを知らないままに育ってきた。暴力をするなんて、もってのほかである。世論を味方にしながら、堂々と処分できる状況が整った。


 暴力をふるった生徒に「退学」、「死ね」や「殺す」と書き込んだ者に「無期停学」の処分を下す。「無期停学」は復帰させるつもりはなかったので、実質的には退学処分といえる。


 いじめに苦しんでいる生徒は、他にもたくさんいるはず。理不尽な思いをしている子供たちが、一人でも救われることを切に願う。


 校長は孫の遺影を見る。自分さえしっかりとしてれば、命を失うことはなかった。若くして死んだ孫に、「ごめんなさい」と何度も謝罪した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る