第65話 マスコミが押し寄せてきた(中学校時代の校長視点)

*中学校時代の校長の学校前


 出勤しようとすると、見知らぬ人間がたくさん立っていた。マイクを持っていることから、マスコミ関係者だと察しがついた。


 マイクを持ったリポーターは、こちらを質問攻めにする。


「高岡校長、どうして無視を放置したんですか?」


「修学旅行にも参加させなかったのは本当なんですか?」


「文化祭、体育祭といった行事も参加していないみたいですが・・・・・・・」


「生徒がかわいそうとは思わなかったんですか?」


「保身していないで、早く返事をしてくださいよ」


 中学校時代のことを、マスコミがどうして知っているんだ。表沙汰にならないように、細心の注意を払ったはず。


 ガキ一人の言い分で、マスコミをあそこまで動かすのは無理。彼のバックで、巨大な力が働いているとしか考えられない。生徒の身辺調査をしたとき、そのような事実はどこにもなかった。


 正直に話をしたほうが、無視をするよりもダメージは大きい。高岡は自宅の裏側から、内密に出社しようとする。


 悪だくみは見抜かれていたのか、マスコミはこちらにかけつけてきた。


「高岡校長、一言だけでも・・・・・・」


「社会に対して、言葉を発してください」


「高岡校長、お願いします」

 

「逃げていたら、立場はどんどん悪くなりますよ」


 マスコミを振り切るように、車を発進させた。前をほとんど見ていなかったために、目の前に孫が現れたことに気づけず、彼をひいてしまうこととなった。


 高岡はあわててかけよるも、完全に手遅れだった。孫は車の衝撃で、意識を失っている。病院に運んだとしても、助かる見込みは0。世界で一番大切だと思っていた、孫を自分の手で殺してしまうなんて。マスコミに追い詰めらえるよりも前に、自分で自分の人生を台無しにしてしまった。


 マスコミは容赦なく、孫を轢き殺した男にシャッターを浴びせてくる。一つ一つが、地獄への入口さながらだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る