第61話 修学旅行も仲間外れだった

 学校の恒例行事である、修学旅行の時期がやってきた。生徒たちでアンケートを取った結果、北海道に行くことになった。


 小学校時代、中学校時代は自主的に休む。教師は口にしなかったけど、おまえは休めという空気を発していた。こちらとしても行きたくなかったので、体調不良という形で折り合いをつける。


 高校時代になっても、参加する意思はゼロ。それゆえ、積立金を一円も払っていなかった。


「文雄、修学旅行はどうするの?」


 南の質問に、文雄は淡々とした声で答える。


「欠席・・・・・・」


 修学旅行で決まった行き先に、親があとで連れて行ってくれる。気心の知れた人間と過ごすほうが、何倍、何十倍も楽しい。自由を束縛される行事など、どぶに金を捨てるくらいに価値がない。


 南は事情を察したのか、


「文雄と一緒に行動して、同じ部屋で眠りたいです」


 といった。琴美、詩織もそれに続いた。


「ボクもそうするのだ」


「私もそれでお願いします」


 三人の優しさに、こみあげるものがあった。無視をされていたときは、誰からも優しくしてもらえなかった。


「学校行事だから、男女で宿泊するのは認められない。そんなことをしたら、日本中で大問題になる」


 小学生であっても、男女一緒は難しい。高校生ともなれば、火を見るよりも明らかだ。


「橘君が参加しないなら、ボクも一緒に休むのだ」


 琴美の言葉に、詩織、南が続いた。


「私も同じようにします」


「私も休みます」


 文雄は自主的に休もうとする三人に、

 

「こちらには合わせず、三人は自由に参加すればいい。人に気をつかっても、何も得られるものはないぞ」


 と伝える。彼女たちを犠牲にするのは、是が非にも避けたかった。


「文雄を仲間外れにする、修学旅行なんて行きたくない」


「そうだそうだ。そんなことはありえないのだ」


「私も同じ気持ちです。クラスメイトをのけ者にする、修学旅行はひどすぎます。中止にすればいいのではないでしょうか」


 文雄のいる教室に、校長が入ってきた。


 校長は話をする前に、コホンと咳をする。いつもやっていることから、彼なりのルーチンであると思われる。


「今年度の修学旅行は中止です。参加人数が減りすぎたことで、旅行会社と折り合いをつけられなくなりました。積み立てたお金については、キャンセル料を差し引いて返金させていただきます」


 退学者があまりに多すぎて、旅行のプランは崩れていた。そのことを知って、ちょっとした優越感に浸っていた。

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