第59話 東京に住み続けたい(優香編)

 父が部屋に入ってきた。年齢は70に近く、おじいちゃんさながらである。


 父は腰を曲げた状態で、 


「停学になった高校から、転校先を紹介してもらえた。沖縄の高校に通ってもらう」


 といった。活舌が悪く、ところどころ聞き取りにくい部分も含まれていた。


 転校するのはいいとしても、よりにもよって沖縄。もっといい場所を選べなかったのか。


「優香の通うところは、学校をやめた不良ばかりを受け入れている高校だ。地獄同然のスパルタ教育で、生徒が社会に旅立てる人材になるようにサポートをしている。停学処分を受けた娘に、ぴったりの高校だと思わないか」


 父親の圧に押され、敬語で返してしまった。


「は、はい。おとうさまのおっしゃるとおりです」


 父は高校の説明を付け加える。


「校長の話によると、クラスメイトが15人くらい通うらしい。心強い仲間と過ごせば、不安を軽減できるぞ」


 亜美と再び同じ学校に通うのか。無視をしたときから、あの女から逃れられない運命になっていた。


「新しい高校は悪さをした場合、強制労働などもあるらしい。まっとうな心になるためには、もってこいの学校だ」


 生徒に強制労働をさせる高校なんてあるのか。私はそのような高校は、見たことも聞いたこともなかった。


「殺人を犯さない限りは、退学になることはないらしい。安心して学校に通える素晴らしい学校だ」


 強制労働をさせる時点で、一ミリもまともであるとはいえない。口にはいえないけど、頭がおかしくなったのかなと思った。


「心を入れ替えてもらって、社会ではしっかりと働いてくれよ。俺たちは高齢だから、おまえを支えるのは難しい」


 父はそう言い残し、部屋からいなくなる。優香の心の中には、大きな不安が芽生えていた。

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