第57話 三人のクラスメイトが家にやってきた

 どういう流れなのかはわからないけど、南、琴美、詩織の三人が自宅にやってくることとなった。


 三人の女性が家を訪ねたことに、母は複雑な表情を浮かべていた。どのように反応すればいいのか、わからなかったと結論づける。


 文雄は家に訪ねた三人に、麦茶を提供する。


「南、植野さん、朝倉さん、麦茶だよ」


 琴美は喉が渇いているのか、麦茶を一気飲みする。


「橘君、ありがとうなのだ。ボクの喉はおおいに生き返ったぞ」


 南はお茶に手をつけなかった。


「南、どうしたんだ?」


「ちょっと考え事をしていただけ。お茶はあとでもらうね」


 琴美、詩織が転校してから、俯く機会が多くなった。思い悩んでいることがあるなら、相談に乗りたい。


「橘君、ありがとう。お茶をいただくね」


 詩織は半分だけ、麦茶を飲んだ。


「なかなかおいしいね。もしかしたらだけど、橘君が沸かしたお茶なの?」


「ああ。家では当番をやっているんだ」


 文雄が沸かしたといった瞬間、南は一気に麦茶を飲み干す。


「文雄、すごくおいしいよ。おかわり、おかわり」 


 一瞬ではあるものの、南に笑顔が戻った。文雄はそのことを喜ばしく思えた。


 琴美は真剣な表情で、過去の出来事を聞いてきた。


「橘君はどうして、無視されるようになったのだ。差し支えないのであれば、聞かせてほしい」


 詩織は他人の領域に踏み込もうとする女性に、激しく突っ込んでいた。


「琴美、そういうことは聞いてはいけないよ」


 文雄は弱々しい声で、無視をされた経緯を説明する。


「理由についてはわかっていないんだ。亜美という女が主導して、いじめはスタートしたことだけが判明している。いうことを聞かないものは、殺すというようなことをいっていたみたい」


「橘君は何かしたことはないのか?」


 琴美の質問に、首を横に振った。


「記憶にまったくないけど・・・・・・」


 一斉無視が始まるまで、話をする機会は多くなかった。私語を交わした記憶は、皆無に等しいレベル。


「記憶にないようなことで、無視はスタートしたということか。謎はますます深まるばかりだ。ボクが名探偵になって、解決に導きたいところだけど・・・・・・」


 まともな神経をしていないからこそ、いじめを堂々と行える。そのような人間のことを考えるなど、完全に時間の無駄だ。

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