第56話 今日に限ってどうして中学時代の教師と会うのか?

「ボクは大満足なのだ」


 琴美は目当てのものを食べられて、すごく機嫌がよくなっていた。


「から揚げも食べられたし、結果オーライといったところだね」

 

 詩織はラーメンに、大盛りのから揚げを追加。本日はよっぽど、から揚げを食べたかったものだと思われる。


「文雄はどうだったの?」


 南の問いかけに、とっさに返事をする。


「すごくよかった・・・・・・」


 元気のない声だったことで、嘘であることを見抜かれてしまった。


「牛丼を食べたいなら、強くいってくれればよかったのだ」


 琴美の言葉に、南も続いた。


「そうだよ。文雄が強くいっていたら、四人はまとまったと思う」


 皆からの心配りに対して、申し訳ない気分になった。


「橘君は優しすぎるよ。もっと、もっと、わがままをおぼえていくことをおすすめする」


 詩織は体を合わせようとするも、今回はくっつくことはなかった。


「ごめんなさい。一度ならず、二度も抱きつこうとしてしまった」


「気にしなくてもいいから・・・・・・」


「橘君を見ていると、優しく包み込みたくなっちゃうみたい」


 四人のところに、中学時代の教師らしき人物が立っていた。


「橘君、女友達ができたんだね。中学時代は一人ぼっちだったから、先生は心配したんだよ」


 うさん臭さ200パーセントの言葉を聞き、食べたものを戻しそうになってしまった。


 南、琴美、詩織は黙っていなかった。


「文雄は過去で苦しんでいるんです。彼には一切かかわらないでもらえませんか?」


「そうだぞ。無視を放置するような、教師に声をかけられる筋合いはないのだ」


「心のピースを少しずつ取り戻そうとしているんです。そっとしてあげることはできないのでしょうか?」


 女教師はすぐには引き下がらなかった。


「私はやめさせようと思ったけど・・・・・・」


 三人は教師を前にしても、堂々とした立ち振る舞いをしている。いじめを受けないためには、こういう態度が必要なだと思った。


「やめさせていないのであれば、結果は同じじゃないですか。言い訳は非常に見苦しいです」


「そうです。負け犬の遠吠えみたいなことをいわないでください」


「何事もなかったかのように、声をかけるのはやめていただけないでしょうか?」


 南はいつにもなく、感情のこもった声を発する。


「○○○○の前では、教師は無力でしょう。こんな言い方はよくないでしょうけど、圧力をかけることだってできるんだから」


「○○○○による圧力・・・・・・」


 オウム返しをしたあと、女教師は逃げるようにいなくなった。


「南、○○○○と知り合いなの?」


「そうだよ。おとうさんの元クラスメイトで、どんなことであっても力を貸してくれる頼もしい存在だよ。他にもいろいろな有力者に頼ることもできる」


「南さん、やってしまえなのだ」


「そうだそうだ。悪を徹底的に排除しよう」


 南は胸に手を当てた。 


「情報収集をきっちりとやってから、動こうと思っているの。今はそのタイミングではない」


 南が強気でいられるのは、○○○○の存在あってこそなのかな。それについてはよくわからなかった。

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