第55話 ラーメン店に到着

 担任と会ったからか、気分は少しすぐれなかった。無視を容認した人物と顔を合わせるのは、マイナスに作用する。


 南は感情の変化を、きっちりと読み取っていた。


「文雄、気分がよくないみたいだね」


 文雄は指でどれくらいなのかを表現したあと、


「ああ。ほんのちょっとだけ、気分が悪い」


 といった。心配させないために、実際よりも小さくした。


 文雄の背中付近で、叩きあうような音がする。後ろを振り向くと、三人の手が重なり合っていた。


「文雄、力になるよ」


「ボクが背中を撫でるのだ」


「私でよければ、サポートしていくね」


 三人の心強い仲間を作れた。過去はどうであれ、現在はそれなりに充実しているといえる。小学生の同級生みたいに、無視する側になる確率は0とはいえないけど・・・・・・。


「嫌なことは嫌ときっちりといえるようになろう。黙ったままで生きているから、教師、他の生徒になめられるんだよ。いうところはびしっといったほうがいい。文雄は優しすぎる・・・・・・」


 南がヒートアップしそうなところを、詩織は必死になだめようとする。


「南さん、それくらいにしてあげよう」


「鼓舞しようとすればするほど、大切な人を傷つけるだけだ。橘君の力になりたいなら、ストップしておくべきなのだ」


 琴美のいうとおりである。嫌なことを忘れるためには、記憶に蓋をするしかない。


 四人はラーメン店の前についた。琴美は食べたいものを食べられるとあって、テンションは一段と高くなる。たった一杯のラーメンに、ここまで気分をあげられるのは羨ましいと思えた。

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