第54話 中学校時代の担任と顔を合わせる

「ラーメンは楽しみだ。僕は早く食べたい」


 お目当てのラーメンを食べられるとあって、琴美のテンションは異様に高かった。


「琴美はじゃんけんだけは強いんだよね」


 詩織の棘のある言葉に、琴美はおおいに反応する。


「じゃんけんだけとはなんなのだ。他にも優れているところはいっぱいあるはずだぞ」


「はいはい。そういうことにしておくね」


「ボクに対して厳しすぎるのだ。ちょっとくらいは優しくしてほしいのだ」


 詩織は軽く受け流す。


「さいですか・・・・・・」


 ラーメン店に向かっている途中で、見覚えのある顔と出くわす。中学二年生の時に、担任を受け持っていた男である。教師の威厳はまったくなく、空気さながらの存在だった。


 普段は大人しいけど、怒らせるととてつもなく怖かった。生徒たちの間では、「爆弾」、「時限発火装置」、「点火花火」などと呼ばれていた。


 四人で通り過ぎようとすると、担任に声をかけられる。できることなら、気づかないふりをしてほしかった。空気の読めなさは、数年前から進化していなかった。


「橘か。久しぶりだな」


 文雄は社交辞令の挨拶を返す。心は一ミリたりとも込められていなかった。


「先生。お久しぶりです」


「文雄、この人は誰なの?」


 南の質問に短く返答する。


「中学二年生の時の担任だ」


 南は中学二年生の担任と知って、眉を露骨にひそめていた。


「文雄の無視を容認したくせに、なれなれしく声をかけないでもらえますか?」


 琴美もならった。


「そうなのだ。橘君は声すら聞きたくないはずなのだ」


 詩織も続いた。


「先生が放置したために、橘君は深く傷つくことになりました。目の前からすぐに消えてあげてください」


 敬語を使っているけど、いっていることはきつめ。教師に対して、敵対意識を持っているのが伝わってきた。


 文雄は三人の肩を叩いたあと、


「過去のことをいっても変わらない。四人でラーメン店に向かおう」


 といった。三人は納得していなかったけど、文雄の言葉に従った。彼女たちの言葉が効いたらしく、教師は何もいってこなかった。

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