第51話 三人で話をする

 三人で登下校をするのは、六年ぶりくらい。無視をされてからは、一度もなかったシチュエーションだ。


 他学年生徒の姿が目についた。文雄の学年とは異なり、男女の笑顔が弾けている。露骨ないじめのないクラスは、明るい学校生活を送れるのかなと思った。文雄のクラスはどうあがいても、手に入れられない光景だ。


 二年生同士で交際していたカップルは、ほとんどが破局していった。残るペアについても、会話するところを見かけるのは稀。あの様子だと、すぐに別れると思われる。いじめでつながっていた絆は、もろくも崩れ去っていった。負の感情でつながった人間は、衝撃に弱いのかもしれない。


「橘君、二人三脚はよかったぞ。本当にありがとう」


「こちらこそありがとう。大切なことを学べた気がした」


「次にやるときは、息を合わせられるようにしようぜ。今日はバラバラだったから、足を前に進めなかった」


 読書ばかりの生活を送ってきたため、阿吽の呼吸を合わせることを忘れていた。二人三脚などを通じて、少しずつ取り戻せるといいな。


 空からの太陽が顔を直撃。あまりの眩しさで、目を閉じてしまった。


「すっごく眩しいね」


「そうだな」


 琴美、詩織も目を閉じた。


 しばらくして、三人は目を開ける。詩織は眩しさを防止するために、サングラスをかけていた。


「橘君、腰は難しかったら、肩でやっていこう。そちらなら、気兼ねなくやれるだろうし」


「朝倉さんは気配り上手なんだな」


「そんなことはあるぞ。もっともっと褒めてくれたまえ」


 琴美が調子に乗っていると、詩織は軽く小突いた。


「琴美、調子に乗りすぎだよ」


「ちょっとくらいはいいじゃないか」


「ほぼ初対面の男に、腰を触れというのは非常識。橘君でなくても、緊張するに決まっているよ」


「無許可で抱きついた女にはいわれたくない。あんなことをされたら、男の心臓はストップするぞ。逆セクハラ女」


 抱擁されたときの衝撃は、腰を触ったときを遥かに上回っていた。


「私はすぐにやめたよ。琴美はずっとやっていたじゃない」


「ほんのちょっとだとしても、抱き着いたほうが悪いのだ」


 二人がコントさながらなので、くすっと笑った。


「二人はすっごく仲がいいんだな」


 琴美、詩織はとんでもないという顔をする。


「そうでもないぞ。喧嘩するときは思いっきり喧嘩する」


「そうだよ。喧嘩後は一週間くらい、口をきかないこともしばしばだよ。あと一週間くらいしたら、大喧嘩で距離を置いていると思うよ」


 喧嘩をしても、何事もなかったかのように仲直りできる。文雄にはわからない世界観。無視をされていたので、喧嘩をするチャンスすらなかった。


 三人は建設中の建物の前を通る。いつになるかはわからないけど、コンビニができるらしい。実現したら、学校生活は少しだけ便利になる。


 交差点に差し掛かったところで、三人は離れ離れになった。そのあとは、一人でゆっくりと家に帰った。


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