第50話 少しだけ前を向けるかも

 五年ぶりに、クラスメイトと話ができた。当たり前のことのはずなのに、大きな感動を覚える。自分の置かれた状況がいかに、最低だったのかを示していた。


 文雄のところに、琴美、詩織がやってきた。


「橘君、一緒に帰ろうなのだ」


「橘君、いろいろとお話ししようよ」


 南だけでなく、他にも接する相手はいる。無視をされていたことで、頭から抜け落ちていた。


 琴美は張り切った声で、南を誘っていた。


「南さんも一緒に帰ろうよ」


 南は元気のない声で答える。


「ごめんね。今日は寄るところがあるから・・・・・・」


 昨日はそんなことはいっていなかった。文雄は心配になり、南のところに近づいていく。


「南、何かあったのか?」


「そういうわけじゃないけど・・・・・・」


「それなら・・・・・・」


「心の整理をする時間を取りたいから、琴美さん、詩織さんといっしょに帰ればいいよ。明日になったら、いろいろとお話をしようね」


 南は逃亡する犯人さながらに、教室からいなくなってしまった。そっとしておいた方が得策だと判断し、彼女のやりたいようにさせることにした。


 文雄のところに、琴美、詩織がやってきた。


「橘君、一緒に下校しようなのだ」


「橘君、一緒に帰ろう」


 南のことについては、帰宅してから話をすればいい。誘ってくれた二人と帰ることに、頭を切り替えた。


「ああ、そうする」


 コミュニケーション能力を身に着け、一人の社会人として活躍していく。ほんのちょっとではあるものの、展望が切り開けたように感じられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る