第44話 とりかえしのつかないことをしていた(亜美編)

 おかあさんに対して、同級生3人が包丁を突きつけた。新幹線に乗っていた女は、事件を夜に初めて知ることとなった。


 殺人事件とは書かれていないので、おかあさんは生きていると思われる。顔を合わせる機会を得られたら、心の修復に力を貸したい。


 一人の部屋で過ごしていると、スマホに着信があった。普段はめったにやり取りをしない、長女からだった。


「亜美、事件のことは知ってる?」


 犯人を追い詰めていくかのような、厳しい口調だった。


「うん。知っているけど・・・・・・」


「あんたの身勝手な行動で、大切な家族を傷つけたんだよ。そのことについてはどう思っているの?」


「申し訳ないき・・・・・・」


 長女は話に割り込んできた。


「命を失ってから、謝ってもどうにもならないんだよ。あんた、そんなこともわからないの?」


 長女からの正論に、何も言い返すことはできなかった。


「私、次女、三女にだって、どんな形で迷惑がかかるかわからない。鬱憤を晴らすためだけに、集団いじめをした罪は一生かかっても消せないよ。あんたが就職できるとしたら、自衛隊くらいかもしれないね」


 自衛隊という言葉を聞き、スマホを持つ手が崩れた。閉塞的、時間に厳しい、いじめの温床になりやすい会社で働くのは絶対に嫌だ。


「あんたのせいで、落ちるところまで落ちそうな予感がしてきたよ。家族全員でホームレスになる覚悟もしておいてね」


 乾いた声であったことは、説得力をより増していた。鮮明に近いレベルで、ホームレスになる姿が浮かんだ。


「事件を起こした犯人は、過去のことを暴露するのは確実。あんたの姉だと知られたら、会社から冷たい視線を向けられるだろうね。同町圧力という名の、自主退職に追い込まれるかもしれない。就職活動をやっても、おおいに苦戦する」


 地獄への足音が、一歩、一歩、また一歩と近づいてくる。どんなにあがいても、状況を脱するのは厳しい。


*第一部はここで終了です。二部は主人公と転校生のお話などが登場します。亜美などのクラスメイトもそれなりに登場します(転校した学校において)。


 

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