第39話 沖縄に向けて出発(亜美編)

 亜美は支度を終え、自宅を出ることとなった。母の言葉からして、二度と戻ってくることはないと思われる故郷。


 空は雲一つない真っ青。亜美のすさんだ心とは、完全に真逆をいっている。こんなときくらいは、ちょっとは曇ってほしい。


 自宅の前には、3人のやつれた生徒が立っていた。目にクマができており、睡眠不足は誰の目にも明らかだ。


「亜美、あっちにいってもファイトだよ」


「私は応援しているからね」


「亜美は高校生だよ。人生をやり直す機会は絶対にあるはず」


 脅迫レベルのメールを見たからか、本心でいっていると思えなかった。こいつたちもどうせ、「死ねばいい」、「消え失せろ」、「クズ女」などと考えているに違いない。


「それなりにやってくるよ。あんたたちもしっかりとやればいいよ」


 うつむいた状態で、新幹線のほうに向かっていく。


「亜美、冷たすぎない」


「私たちは仲間だったじゃない」


「そうだよ。私たちは大切に思っている」


 励ましの言葉を聞いても、ポジティブ要素は感じなかった。


「私のことを心配せずに、学校に戻ったほうがいい。他人に費やしても、何も返ってくるものはないから」


 わずかな期間で、心はすたれてしまった。取り戻すためには、10年、20年はかかると思われる。

 

「亜美・・・・・・」


「学校のことはもう思い出したくないの。一人にしてくれない」


 3人はその言葉を聞き、亜美の元を離れていった。


 文雄はあんなに無視をされても、自分を高めるために努力をしていた。あれだけのことをされたのに、たいした男だ。私もいつかは、あんなふうになれたらいいな。


 小学校時代は存在そのものが気に食わなかったけど、目指すべき道を教えてくれるお手本でもあった。不思議な感覚に対して、本気で恋をしたのかなと思った。

  

 最後に会話できるとしたら、「本当にごめんなさい」と伝えたい。そのように思いながら、駅へと歩き出した。


 道を歩いていると、いろいろな人と出くわす。私とは異なり、幸せな未来が待っている人たち。顔を見ているだけで、人生の不公平を感じざるを得なかった。


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る