第37話 引っ越しの準備をする(亜美編)

 沖縄の高校に転校するために、荷物の整理などをしていた。


「亜美ちゃん、引っ越し準備は終わった?」


「もうちょっとで終わると思うけど・・・・・・」


 90パーセント程度は終了。あと1~2時間程度で、出発のための準備は終わる。


「準備を終えたら、すぐに家を出発してね」


 日曜日までは家にいられると思っていたのに、それすら許されないとは。いじめを主導した娘とは、一秒たりとも一緒に過ごしたくないらしい。


「小学校時代、中学校時代のアルバムなども、持っていくようにしてね。こちらに置きっぱなしにしていたら、すべて処分するから」


 娘の荷物を完全に処分する母。一緒に過ごした記憶も、完全抹消するつもりのようだ。彼女の心の中では、亜美を娘とみなしていない。


「盆、正月なども返ってこなくていいから。恥さらしを親戚の前に出すわけにはいかないもの。三人の姉に連絡を取るのもやめてね。あなたが妹だと知られたら、会社の居場所を失う」


 私は無視を主導したに過ぎない。母親のやっていることは、度が過ぎてしまっている。


「もうちょっとくらい・・・・・・」


 数秒後、頬を叩かれる感触があった。


「あなたは一人の人間を殺そうとしたの。殺人未遂犯と何ら変わらないということを、自覚しなさい」


 母親からの一言は、強烈に胸に刻み込まれた。


「準備を手伝うから、夜の電車で出発してね・・・・・・」


 母から「切符代」と書かれた封筒を受け取る。横にはでかでかとした字で、「不良品」と書かれていた。自分のことであることを理解するのに、三分以上の時間を要することとなった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る