第27話 母親からの非情宣告(亜美編)

 亜美は自宅に戻った。戻りたくなくても、ここしか居場所はなかった。


「ただいま・・・・・・」


 母はすぐさま近づいてくる。娘を出迎える雰囲気は、一ミリも感じられなかった。


「亜美ちゃん、学校から連絡があったわ。転校の手続きをしようと思っているから、新しい高校に通ってくれる」


 大好きな人と疎遠になる。そのことを考えるだけで、胸が張り裂けそうになっていた。話はできなくても、せめてそばにいたい。同じ空気を吸いたい。


「どこの学校に行けばいいの?」


 母は資料をチラ見する。


「新しい学校は沖縄にしようか。ここからでは通えないので、引っ越しの準備をしてちょうだい。一秒でも早くしてくれると助かるんだけど・・・・・・」


 東京から東京の高校ではなく、東京から沖縄の高校に転校させる。○○学校には二度と関わらないように、という強いメッセージを感じる。


 母親の一秒でも早くしろは、とっとと出ていけという意味である。いじめを主導した娘に対する愛情は、一ミリも残されていなかった。

 

「転校は来週からでいいわよね。新幹線のチケット、船、アパートの手配をしておいたから、心配することは何もない。あなたは新しい学校で、のびのびと過ごせるわよ」


 亜美は心の中にある本音をつぶやく。


「沖縄に行くくらいなら、退学したいだけど・・・・・・」


 東京は日本一の場所であるのに対し、沖縄は何もない不便なところ。そのような場所に引っ越すのは、プライドが許さなかった。


「退学しても構わないけど、高校生の身分を失った時点で、家からいなくなってもらうよ。アパートをすぐに借りて、アルバイトをして生活してね」


 母親の話を聞いて、沖縄への引っ越しを承諾せざるを得ないと感じた。


「沖縄の高校に行く・・・・・・」


 母は下唇をなめる。


「ようやく決心がついたみたいだね」


「お金はどうするの?」


「生活に必要になるお金は、こちらから振り込んでおくから。使いすぎないように注意してね。予算オーバーしても、一円も送らないよ」


 生活をするにあたって、どれくらいのお金をもらえるのか。亜美の関心は、そちらに向けられていた。

 

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