第22話 親から勘当するといわれた(亜美編)

 亜美は眠っているときに、スマホの着信音が鳴った。


「赤坂が退学処分になったよ」


 赤坂は胸ぐらをつかんでいた生徒。根は悪くないのだが、血の気早いところがあった。高校においては、その性格が仇となった。


「橘くんに無理に接しようとした時点で、処罰の対象になるみたい。以前と同じようにするしかなさそうだね」


 声をかけようとするのもNGとは。無視を推奨しているだとすれば、あまりにえげつない仕打ちともいえる。学校はどちらの味方をしようとしているのか。


「あんたのせいで、すべてがめちゃくちゃじゃない。私たちの人生をどうしてくれるのよ」


 ほんの軽い気持ちで、クラスの無視を主導。こんなことになろうとは、頭の片隅になかった。


 母が鬼のような形相をして、亜美の部屋にやってきた。


「亜美ちゃん、五年間もクラスメイトを無視していたの。しかも、いじめを主導していたのはあなただと聞かされたんだけど」


「そんなことは・・・・・・」


「正直にいいなさい」


 逃げとおせば逃げとおすほど、言い逃れをしにくくなる。亜美は正直に伝えることにした。


「はい。特定の人間を五年間無視していました」


「どうして、そんなことをしたの?」


「優秀だったことが気に入らなかった。全員で無視をして、どん底に叩き落してやろうと思ったの」


 母親の声は、ワントーン高くなった。


「そんなくだらない、そんなくだらない理由で・・・・・・」


「私は一番になりたかったの。誰にも負けたくなかった」


「無視をした生徒に嫌がらせをしたら、停学もしくは退学になるみたいよ。推薦については既に取り消しといっていた」


 推薦取り消しは、保健室ですでに聞かされていた。そうだとしても、重くのしかかってくる。


「まっとうに生きていれば、こんなことにはならなかったわ。あなたは生きる道を完全に間違えたわね。他人をいじめるような子供と、一緒に過ごすのは無理ね。高校を卒業したら、家からいなくなるように」


 推薦取り消しだけでなく、高校卒業後に住む場所を失う。その世界を想像するだけで、意識は遠のいた。


 母は心配することなく、部屋から出ていった。娘に対する愛情を、完全に失ったことを認めざるを得なかった。

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