第21話 退学者第一号&最終通告
南と二人で過ごしていると、続々とクラスメイトが近づいてくる。小学生のときであっても、こんな光景は記憶になかった。
恐怖感に支配されたのか、体はおおいに委縮することとなった。南はそれを察したのか、普段よりも距離を詰める。
「文雄にとどめを刺そうとしているの。私の大切な人をこれ以上苦しめないで」
クラスメイトは一斉に頭を下げる。形だけのポーズであることは、すぐに察しがついた。
「五年間も無視をしてごめん」
謝れば許してもらえるという、間違った価値観の元で日本人は生きている。100パーセントを許す人間がいるとすれば、完全なる聖人君子だ。
南は頭を下げた人に、冷たい言葉を投げかける。
「文雄は無視によって、心が壊れそうになったんだよ。そんなことをしたとしても、もうどうにもならないよ」
南はクラスメイトに、残酷すぎる真実を伝えた。
「自己満足のパフォーマンスをするくらいなら、文雄には二度と関わらないようにすること。あなたたちができるのは、それだけだよ」
「ま・・・・・・」
「あなたたちのふるまいは完全に一発アウトで、挽回の余地は一切ないから。高校生になって、そんなこともわからないの」
南の強心臓はすごい。自分はどんなに頑張っても、あんなふうになるのは難しい。
タイミングを見計らっていたのか、新人の女教師が入ってくる。ナイスバディーゆえに、「アイドルちゃん」、「アイドル先生」の愛称で親しまれている。
「アイドルちゃん」の視線は、謝りに来た生徒に向けられる。
「あなたたちは、もう二度と関わってはいけない。不用意に声をかけようものなら、職員会議で処罰を検討することになるよ」
生徒の一人はある言葉に敏感に反応した。
「処罰・・・・・・」
「アイドルちゃん」は大きく頷いた。
「そうだよ。無理に話しかけたと認定されたら、停学、退学などを含めた、厳しい処分を覚悟してね・・・・・・」
声をかけただけで停学、退学処分を下される。無視をされた張本人ですら、やりすぎだと思えるレベル。ここまでしなければ、どうにもならないと認定しているようだ。
「赤坂君、あとで職員室に来てくれる。胸ぐらをつかんだ処分を、あなたに伝えないといけないの。無断で帰った場合は、全員の前で処分を発表することになるよ」
赤坂という男は、「アイドルちゃん」に
「あいつが無視をするから・・・・・・」
といった。胸ぐらをつかんだ処分を、軽減しようと必死になっている。先ほど謝ったのは、形だけであったことが証明された。
「あなたたちは、五年近くも無視をしてきたんでしょう。そのうえ、死ね、殺すといった内容を見えないところでかきこんでいた。ありえないことをしたくせに、同じことを一度されたくらいで怒るなんて、人間としてどうかしてるわね」
文雄は無視された事実を、教師に伝えたことはない。情報はどこから入手することができたのだろうか。
「橘くんだけでなく、他の生徒にも暴力をふるっていたと聞きました。常習性の高さがうかがえます」
暴力などは一度で癖になりかねない。
「俺には将来が・・・・・・」
「アイドルちゃん」は目元だけ笑った状態で、
「五年間も無視をする、他人に暴力をふるう人間の将来なんて、教師にとってはどうでもいいのよ。どんな道を進んだとしても、破滅の道を歩む生徒に関心はないの」
と冷たく言い放つ。生徒に優しいといわれている姿は、完全に消えてしまっていた。
「教師に抵抗しようとしたから、処分をここでいうことにします。あなたは現時点をもって、退学処分です。荷物をすぐに片付けて、学校からいなくなってください」
男は退学処分と聞き、地面に崩れ落ちてしまった。
『「アイドルちゃん」、助けてください・・・・・・』
「正直に白状していたら、無期停学で終わっていたかもしれません。隠し通そうとしたので、重大案件として認識しました」
自分から名乗り出ていても、無期停学処分を受けていた。無期停学は実質的な推奨退学であり、処分としては非常に重い。
「他の学年の生徒から、毎日のように口論をするという情報を得ています。明日からも同じことをしたら、処罰の対象にします。喧嘩をしたいなら、学校以外の場所でやってください」
「アイドルちゃん」は用件を伝えると、みんなの前からいなくなった。
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