第18話 病気にかかっても冷たくされるなんて(亜美編)

 目を開けると、保健室で横になっていた。

 

「ようやく目を開けましたか?」


 40くらいの男は、ロボットみたいな口調で話す。


「私はどうして?」


「文雄君、南さんから倒れたと連絡が入ったんです。放置するわけにもいかないので、女性教師に連れてきてもらいました」


 小学生時代にいじめていた、男に救われるなんて。心の中で大いなるやりきれなさを感じた。


「あなたのクラスは薄情ですね。気絶しているのに、誰も心配そうにしていませんでした。倒れている姿を見て、笑っている人はたくさんいましたけど・・・・・・」


 無視を主導した女は、倒れても助けてもらえない。残酷すぎる事実に対して、胸を大いに痛めた。


「あなた方の素行については、小学校、中学校から確認を取りました。今回の件についても、自業自得としかいいようがありませんね。私は少なくとも、そのように思っていますから」


 生徒だけでなく、教師からも見放されている。私は誰を頼りにして生きていけばいいのだろうか。


「文雄君、南さん以外については、推薦を取り消す方向で話は進められています。教室で言い争いをする、机にありえない悪口を書くような人たちを、こちらとしても薦めることはできませんから」


「私の美術の夢は・・・・・・」


 推薦を受けなければ、美術大に進むのは困難を極める。お金を積んだとしても、推薦を取り付ける必要がある。


「この期に及んで、自分の将来の心配ですか。手の施しようのない人間に育ってしまったみたいですね」


「推薦、推薦だけはお願いします・・・・・・」 


「橘くんは五年以上にわたって、一人で苦しみ続けたんです。他人の人生をつぶしたくせに、自分は守ってほしいなんて都合がよすぎないですか。あなたたちは罪を償いなさい」  


 40の教師は小さく瞬きをする。


「目を覚ましたなら、もう出て行ってください。あなたが使用していると、他の生徒を助けることはできません。先ほども二人の生徒が来たけど、あなたの姿を見て出ていきました。一人の命、複数の命なら後者の方が大切です」


 命に序列をつけられるまでに、他人からの評価は下がっている。私はそのことを認められず、大きなうめき声を発する。


「保健室で大声を出すなら、すぐにいなくなってください。他の生徒にとって、迷惑でしかありません」


 亜美は力のない声で、


「わかりました」


 といった。あまりに冷すぎる仕打ちを受けたことで、死んでしまったほうがいいのかなと思った。   

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