第16話 机の上にえぐい落書き(亜美編)
「死ねばいいのに」という言葉は、強烈に頭に残った。認知症、記憶障害になっても、鮮明に残り続けていると思われる。
文雄、南の二人は、教室で楽しそうに話している。私はそれを見るだけで、胸はちくりと痛んだ。
「文雄、本を読むのは楽しいね」
「そうだな。南と読む本はとっても楽しい」
「文雄、隣に座ってもいい?」
無視をしたことが、二人の結束を強める決め手となった。通常に対応していたなら、ちょっとくらいは付け入るスキがあった。
「学校ではダメ!」
「遊びに行ったときは、隣に座ってもいいんだね」
「ああ。好きにすればいい」
「わーい、わーい」
他のクラスメイトは、誰も声を発していなかった。自分の席に座り、授業開始を待ち続けている。ちょっと前までなら、信じられない光景である。
亜美は席に座る前に、落書きされていることに気づいた。内容を確認すると、とんでもないものばかりだった。
「死ね・・・・・・」
「消えろ・・・・・・」
「いきはら(生存ハラスメント、息をするハラスメントの双方の意味を持つ)」
死ね、消えろがかすむほど、いきはらの4文字は頭に残った。生きていること、息をしていること自体がハラスメントだとすれば、私はどうすればいいんだ。死ぬ以外では、解決方法は存在しない。
机の端っこにも悪口は書かれていた。
「サリンを吐く女」
「一酸化炭素を吐く女」
「核に匹敵する大量破壊兵器」
直接的に書かれていないけど、人殺しであるというニュアンスを含む。無視を主導したことはあったけど、他人に暴力をふるったことなんてなかった。
亜美は気分が優れず、保健室に向かった。クラスメイトは誰一人として、優しい声をかけてくれなかった。無視を主導していた女は、完全に孤立していることを認めざるを得なかった。
保健室に向かう途中で、体の力が抜ける。そのあとについては、まったく記憶になかった。
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