第9話 誰なのかわからなかった

 文雄の部屋に、高校生くらいの女の子が入ってきた。


「文雄、ヤッホー」


 声は聞き覚えはあったけど、本人とまったく一致しない。声だけをコピーした、ある女性のスケープコードなのかなと思った。


 文雄は失礼を承知で、本人に確認を取ってみた。


「み・・・な・・・み・・・なのか?」


 高校生くらいの女の子は一直線に、文雄の胸に飛び込んできた。


「そうだよ。文雄の将来のお嫁さん、真心南がやってきました。パチパチパチパチ」


 パチパチパチといいながら、手もしっかりと叩いていた。二人きりの部屋で、歓迎ムードを高めようとしているのが伝わってきた。


「しばらく見ない間に、別人みたいにきれいになったな」


 南の耳たぶは赤く染まった。


「文雄、ありがとう・・・・・・」


「整形したのか・・・・・・?」 


 赤くなっていた耳たぶから、ちょっとした怒りを感じた。


「文雄、そんなことはしていないよ。日々の努力によって、きれいになったんだよ」


「あんなに地味だったのに・・・・・・」


 南は体を離したあと、ほっぺたに大量の空気を詰め込む。


「余計なことをいわれたら、せっかくの雰囲気が台無し。余計なことをいうくらいなら、ゆっくりと見守っていてね」


「ごめんごめん・・・・・・」


 南はもう一度、体を寄せてきた。柔らかい部分が当たっていることで、普段とは異なる刺激を得た。


「文雄、とってもあったかい」


 南の心も同級生と同じように、そっぽ向いていくのか。そのように考えたことで、うめき声をあげてしまった。 


「文雄、どうしたの?」


「ううん、なんでもない」


 南はすぐに意図を汲み取る。


「無視されたことで、誰も信用できなくなってしまったんだね」 


「ああ。そうだ・・・・・・」


 南はぎゅっとする力を強めた。


「私はどんなことがあっても、離れていくことはないから・・・・・・」


 とっても親しくしている奴であっても、一日で敵になることだってある。未来のことについては、誰も知る由はない。


「文雄、外を歩こう。気分転換になると思う」


「そうだな・・・・・・」


 南はがっちりと手をつかんだ。


「いこう・・・・・・」


「ああ・・・・・・・」


 二人は手をつないだまま、家の外に出た。 



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