第3話:私を置いてかないでね・・・ヒロト君。

小玉ちゃんは、自分が女神だってことを大翔ひろとに証明して


「じゃ〜またあとでね」

「あなたが旅館出る時、また現れるから・・・ひとりでほいほい帰らないでね」

「絶対、ついていくからね」


そう言って部屋を出て行った。

まるで狐につままれたような、にわかに信じがたい出来事だよね。


御杜子佐姫おとごさひめって言ったか?


大翔はノートパソコンで小玉ちゃんのことを調べてみた。

そしたらけっこうな言い伝えがあるじゃん。


御杜子佐姫おとごさひめってのは小玉ちゃんがいったとおり、この島根県の伝説に登場する

姫神様らしい。


太古の昔、ふくろうに乗って穀物の種を伝えた御杜子佐姫おとごさひめという姫神様がいたんだって。


御杜子佐姫の母親はオオゲツヒメと言って身体のどこからでも食物を出すことが

できたらしい。


「わお〜オオゲツヒメ?・・・この人嫁にもらったら食いっぱぐれないよな」


あるとき、心根の悪い神がオオゲツヒメの身体にはどんな仕掛けがあるのかと

面白半分にヒメを斬ってしまった・・・。


息も絶え絶えにオオゲツヒメは御杜子佐姫を呼んで、


「お前は末っ子で身体も小さい形見をやるから下界へ行って暮らすがよい」


と言って息を引き取ったんだそうだ。

と、見る見るうちにオオゲツヒメの遺体から五穀の種が芽生えた。

御杜子佐姫は種を手にすると、そこにやって来た梟の背に乗って旅だった。

それから紆余曲折あって人々に五穀豊穣をもたらしたって話。


その他にも小玉ちゃんは治癒能力に長けていて旅の途中で知り合った

のちに片想いとなる人の病気を治し命を救ったとある。

しかし治癒力を使いすぎたことによって自分の存在、体を維持できず

自分が生まれた神の国に引き戻されたらしい。


もともと御杜子佐姫のルーツは養蚕で知られるカイコから派生した女神様らしい。


小玉ちゃんの伝説はまだ続くんだけど、とにかく


その神話が「御杜子佐姫伝説」として、佐姫山神社さひめやまじんじゃの社伝や

民話を通してこの地方に伝えられているようだ。


「なるほどな・・・小玉ちゃん、すごいじゃんこんな伝説持ってるなんて・・」

「つうことは小玉ちゃんといると少なくとも米は買わなくていいってことに

なるのかな?」

「でもな〜女神だって言われてもな〜」


「それにしても、なんで俺のこと気にいっちゃったんだ?」

「一目惚れしたって言ってたけど」

「これまでだって・・・この旅館に数え切れない人数の客が訪れただろう」

「その中に自分の意中の人はいなかったのか?」


「そこがどうも解せないんだよな・・・」


「ん〜・・・まあいいか・・・それはそれとしてこのまま小玉ちゃんには

黙って旅館を出よう」

「旅の不思議な出来事としてちょっとしたエッセイでも書こうかな」


「相手が神話の姫神なんて・・・恐れ多いわ・・・」

「ましてや女神様が彼女なんて・・・ありえないだろ・・・絶対持て余すに

決まってるよ」

「さっさと旅館を出よう・・・そうしよう」


ってことで大翔は旅館をチェックアウトした。

受付でもしやと思って、周りを見渡してみたけど小玉ちゃんの姿はなかった。


今がチャンスと思って大翔は旅館が出してくれたマイクロバスに乗って

もよりの駅まで向かった。


駅に降ろしてもらって、お礼を言って無人駅で乗車切符を買おうと

自販機の前に立って財布から小銭をだそうとした。

その時だった。


大翔の尻をツンツンつつくやつがいる。

とっても嫌な予感がした。


彼は振り返ると、すぐに目線を下に向けた。


「乗車券・・・わたしの分も買ってね・・・」

「彼女を、ほったらかして、ひとり寂しく帰っちゃうつもり?」


「私を置いてかないでね・・・ヒロト君」


「いや〜やっぱりさ、これってマズくない?」

「女神様って・・・人間と女神様なんてどう考えたって釣り合い取れないでしょ」


「嫌なの・・・・嫌なんだ・・・私みたいな女」


「ああ・・・そうじゃなくて・・・嫌とかじゃなくて・・・困ったな〜」


「困ることないよ・・・女神様の彼女なんて、超レアだよ?」

「こんな貴重な彼女、普通手に入らないよ」


つづく。


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