第12.5話 梨乃の違和感

「どうしたのですか? お嬢様」


 東城家のテラスにて、梨乃が千雪に相談を持ち掛けていた。


「ちょっと、モヤモヤする事があるの」

「修太郎様に関することですか?」

「よくわかるわね、千雪。流石は――」

「今、お嬢様が気に掛けていることなど修太郎様関連のことしか考えられません。修太郎様のことで頭がいっぱいなのですから、このお嬢様は」

「そ、そんなに呆れがちに言わなくても……」


 何はともあれ、梨乃は千雪に、修太郎の幼馴染み――夏前蜜香の事を語った。


「夏前蜜香……修太郎様の幼馴染み、ですか」

「ただの幼馴染みというだけなら気にしないわ。シュウ君の大切な友人の一人なのだから。でも、何というか……距離感が、気になるの」


 梨乃は眉間を顰める。


「幼馴染みであると言っていたけど、それでもかなり距離が近いし、その雰囲気がどこかただの幼馴染みとは違う感じがするの」

「その件について、シュウ君は何と言っているのですか?」

「夏前さんは、子どもっぽくて悪戯好きで、シュウ君に対しても気兼ね無く接してくるから、ちょっと度を超した悪ふざけみたいなものだと思って勘弁してやってくれって。以前、彼女がシュウ君と手を繋いで街中を歩いている姿を目撃したという生徒もいるらしいのだけど、その際にも同じような説明をされたそうよ。というか千雪、今さり気なくあなたもシュウ君と呼ばなかった? シュウ君は私だけのシュウ君よ」

「その修太郎様へのお気持ちの強さ、感服いたします」

「……えへへ」

「つまり逆に言えば、お嬢様の修太郎様への想いが強すぎる故の、単なる嫉妬心ではないでしょうか」


 千雪は、紅茶を一口含む。


「ご本人達も説明しているように、男女の関係は必ずしも恋愛だけではありません。長年気兼ね無く一緒に過ごした結果、家族や親友と呼べるほどに距離の近い関係になる事だって珍しくありません。修太郎様は、お嬢様の婚約者。夏前蜜香は、ただの幼馴染み。それ以上でもそれ以下でもない。それが事実では? 東城の娘たる者もっと余裕を持って、どんと構えては如何ですか?」

「それは……そうなのだけど」


 梨乃は、いじいじと胸の前で指先を絡める。


「シュウ君が……他の女子と仲良くしていたら……気になってしまうわ」

「本当に色恋沙汰となるとキッズですね、お嬢様は」

「そ、それに、私が気にしないと言ったとしても、シュウ君は行く行く東城家の一員になる存在、私の婚約者だと周知されているのよ。とすれば、些細な事でも醜聞に繋がる可能性もあるわ」

「なるほど、確かに一理ありますね」

「そうなのよ。だから、必要以上の接触を辞めさせなければならないと思うの」


 ――等と、毅然とした態度で言ってはいるが、単純に気が気じゃないのは目に見えている。


 仕方がない……と、千雪はそこでアドバイスをする。


「では、試しにこんな事をしてみてはどうでしょう――」

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