第8話 梨乃の束縛

「修太郎さん、これからしばらくは私の家で寝泊まりをしてもらうわ」

「……はい?」


 梨乃の発言の意図が一瞬わからず、俺は間抜けな顔をさらしてしまったと思う。


 そんな俺の反応が気に食わないようで、梨乃は溜息を吐いた後、俺を睨み上げて言う。


「修太郎さん、もう定期試験まで一ヶ月を切ったわ。あなたの前回の順位は?」

「……190位です」

「学年の人数は?」

「200人です」

「下から数えて?」

「……10番目」

「全体の何%?」

「下位5%です」

「9科目中赤点を回避できたのは?」

「……一科目だけです」

「そんな結果で、どう思っているの?」

「……情けないです」


 あえて自分は意見を口にせず、質問責めをし、本人の口からダメな点や反省を言わせ、欠点を嫌というほど自覚させる。


 相変わらずモラハラのお手本のような手腕ですね、梨乃さん。


 俺はこれを『矯正』と共に『自戒』と名付けた。


 とにもかくにも、つまり、梨乃の言いたい事はそういうことだ。


 俺の学力は、前回の定期試験で散々な結果を出していることから重々承知。


 次回の定期試験は、当たり前だが同じ結果を出すわけにはいかない。


 なにより、東城梨乃の婚約者が、そんなことになったら末代までの恥である。


 なので、梨乃は俺の学力を強化するために、今より一層の努力を強いようとしているのだ。


 それがつまり、先程梨乃の言った、行動制限。


 これから、俺は定期試験までの間、梨乃の家――つまり、東城家で寝泊まりをすることになるのである。


 いつか来るとは思っていたが……学校が終わった後の時間まで干渉が及んできた。


 学校へは東城家から通い、終わったら梨乃と一緒に車で帰宅。


 後は朝まで、彼女に管理される生活。


 控え目に言って地獄である。


 勉強に集中しないといけないというのはわかる。


 俺達の通う学校は結構な進学校なので、基本的に皆成績がいい。


 先程の『自戒』でも述べたように、俺の前回の試験での成績は、200名中190位だった。


「修太郎さん、あなたには今回、上位15位以内をとってもらいます」


 蜜香は俺に言う。


「これでも甘過ぎる目標設定よ。本来なら、トップを目指してもらわなければならないのだから」

「は、はぁ……まぁ、とりあえず今日は家に帰って着替えとか色々準備しなくちゃいけないから、明日からだよな?」

「既に、あなたのご両親に説明はしてあるわ。今日からよ」

「………」

「何か文句があるの? 修太郎さん」

「イエ、ナイデス」


 俺は、蜜香を真似てAIに脳をジャックさせてみた。


 機械になったつもりでいると、少しは楽になった気分だった。


 ……いや、気のせいだろうけど。




 ■□■□■□■□




 ということで、その日の放課後、俺は梨乃と共に車で東城家へ向かう。


 授業中に、スマホで蜜香に事情を説明したら、蜜香から鬼のような勢いでメッセージが飛んできた。


 主に、梨乃に対する苦言・苦情の数々である。


『ヤバいよ、梨乃さん! 本格的に修太郎を調教するつもりだよ!』

『アタシ知ってる! 大金持ちの家に連れ込まれると、警察も簡単には立ち入りできないからやりたい放題なんだって! 犯罪行為の温床なんだって!』

『修太郎! 今の内に教会に駆け込もう! こういう時は教会に助けを求めるんだよ! 教会なら神の名の下に平等だから!』


 蜜香、その情報は一体どこから仕入れたんだ。


 なんとかナックルズとか読んだりしてるのか、こいつ。


 しかしまぁ、おそらく、東城家にいる間はスマホを見る時間も制限されてしまうかもしれない。


 そうなったら、本格的に蜜香と接することのできる時間も限られてしまう。


 もどかしい。


 先日、胡桃の途中乱入があったとはいえ、俺と蜜香の感情は昂ぶって、ある一定のラインを越えてしまった。


 あれからなんとか普通に接するよう努めてきたが、それでも意識してしまう。


 そして、それは蜜香の方も同じようで、平静な態度を取りながらもふとした瞬間に目が合うと、慌てて逸らすことが多くなった。


 きっと、考えている事は同じだ。


 異口同音だからな、俺達。


 いや、以心伝心な。


 ………。


 あー! こんなやり取りを、脳内じゃなくて蜜香としたいんだよ、蜜香本人とぉ!


 そんな悶々とした気持ちを抱えた最中にやって来た、今回の東城家への軟禁行為である。


 東城家に囚われてしまえば、解放されるまで蜜香とはまともに会えないかもしれない。


「はぁ……」


 俺は溜息を吐く。


「それは、どういう意味の溜息?」


 しまった。


 俺は現在、梨乃と一緒に東城家へと向かう車の中にいたのだった。


 高級車の後部座席、盛大に嘆息を漏らした俺へと、隣に座る梨乃が怪訝な顔を向けてくる。


「まさか、自分が溜息を吐けるような立場だと思い上がっているのではないでしょうね、修太郎さん。誰のためを思って、あなたを東城家へと招いたのか、理解できていないの?」

「……はい、ごめんなさい」


 俺は素直に謝る。


 梨乃の発言も、まぁ、間違ってはいない。


 これは、俺の成績を上げるため、全力で勉強に集中できる環境に身を投じる――言わば、合宿みたいなものだ。


 俺は、「まったく……」と呆れた様子で窓の方へと顔を向ける梨乃を見る。


 ……気のせいだろうか。


 そう言いながらも、そっぽを向いた梨乃の頬は、若干桜色に染まっているようにも見える。


 膝の上に置いた手も、そわそわと忙しなく動かしている。


 まるで、何かを期待しているかのような、そんな所作だった。


 そうこうしている間に、車は東城家の屋敷へ到着を果たす。


 西洋風の大豪邸。


 その入り口近くに車が停まり、俺達は下りる。


「お帰りなさいませ、梨乃お嬢様」

「ただいま。修太郎さん、こっちよ」


 出迎えしてくれた使用人の方々に軽く挨拶すると、俺は梨乃の後に続き屋敷の中を進む。


 しかし、相変わらずものすごい豪邸である。


 長い廊下、ふかふかの絨毯。


 壁に絵画とか、骨董品とかが展示されている。


 ザ・大金持ちの家だ。


「ここよ」


 やがて、辿り着いた部屋のドアを梨乃が開ける。


「ここは……」

「私の部屋よ」


 俺は、梨乃の部屋に通された。


 広い部屋だった。


 俺の自室の三倍くらいはありそうな広さ。


 普通の家のリビングくらいありそうだ。


 真っ白な壁に囲まれた室内には、天蓋付きのベッドやソファ、暖炉まである。


 机や椅子なんかも見るだけで高級品とわかるし、どこか非現実的な感覚を覚える。


 何より、ここは俺も初めて訪れた東城梨乃の部屋。


 だというのに、そんな部屋を目の当たりにしたためか、俺は「掃除するのが大変そうだな……」などと、見当違いなコメントを頭に浮かべてボケッとしてしまっていた。


「修太郎さんの寝室は、別に客室を用意してあるわ」


 梨乃は、ベッドの上に学校鞄を置いて振り返る。


「外で使用人が待っているから、その人に案内をしてもらって。客室には、既に修太郎さんのご家族に用意してもらった修太郎さんの私服も運び込んでもらっているわ」


 用意の手際が凄すぎる。


「部屋に荷物を置いて、着替えを終えたら、勉強道具を持ってもう一度この部屋に集合。時間は十分後で良いわね」


 というわけで、俺は梨乃に言われたとおり、廊下で待機していた使用人のメイドさんに案内してもらい、客室に向かう。


 これまただだっ広い部屋で、俺の自室よりも遙かに快適そうな内装だった。


 そして、言われたとおり用意されていた俺の私服に着替える。


「……?」


 ふと、履き替えたズボンのポケットに何かが入っているのに気付く。


 紙切れだ。


 開くと、その紙にメッセージが書かれていた。


 文字でわかるが、胡桃からのものだった。


『もしも梨乃さんに何か酷い事をされたらすぐに電話して!』と書かれている。


 ……蜜香といい、胡桃といい、心配性だな。


 というか、梨乃さんを半グレか何かだと思っているのかもしれない。


 さて、俺は準備を終えると、再び梨乃の部屋に向かう。


「失礼いたします、お嬢様。修太郎様がお待ちです」


 付き添いのメイドさんが扉をノックする。


 このメイドさん、年頃は俺と同じくらいだろうか?


 随分若いと思った。


 部屋の中から、「ちょ、ちょっと待って」と、梨乃のどこか焦ったような声が聞こえた。


 そしてすぐに「どうぞ」と、いつもの冷静な声が聞こえてきた。


 部屋に入ると、梨乃も私服に着替えていた。


 花柄のワンピース。


 プリーツタイプのスカートで、お嬢様の部屋着という感じである。


 スカートの裾から覗く両足は、黒いニーソックスで覆われている。


「どこを見ているの」


 そこで、梨乃の厳めしい声が聞こえてきた。


 彼女は腕組みをし、俺を睨んでいる。


 まずい、足を見ていたのがいけなかったか。


「お嬢様、修太郎様はお嬢様のおみ足を見ていました」


 っておい、メイドさん!


 横に立っていたメイドが、すかさずそう告げ口をした。


「しかし、そのようにおみ足をアピールするような格好をしていては、修太郎様に『私の足を見て』と言っているようなものだと思いますが」

「ち、千雪! 余計な事を言わないで!」


 メイドさんは、千雪というらしい。


 梨乃は顔を赤くして、明らかに慌てた様子を見せる。


 千雪さんは「失礼いたしました。後ほど、お茶をお運びいたします」といって、部屋を出て行った。


 部屋の中には、俺達だけが残される。


 梨乃を見ると、まだ赤い顔のままで、彼女は視線を逸らしていた。


「……千雪の言った事は、気にしないで」

「あ、はい」

「さぁ、まずは勉強よ。七時に夕食だから、それまでは集中して」


 というわけで、梨乃の部屋にて隣り合って机に座り、俺達は勉強を開始する。




 ■□■□■□■□




 梨乃から勉強を教わる――そんな時間が、刻一刻と過ぎていく。


「こんな問題もわからないの? 修太郎さん。まったく……この公式を使えばいいの。少し前に、一緒に勉強したばかりでしょ? もう忘れてしまったの?」


 相変わらず言い方にトゲはあるし、若干キツい部分もある。


「そう、それでいいの。やれば出来るんだから」


 しかし、どこかいつもよりも、梨乃の表情が柔らかい気もする。


 梨乃の部屋というシチュエーション。


 普段あまり見ることの無い、彼女のラフな格好。


 そんな状況もあってか……なんだか、少し、心の中がざわめく感情を覚えるのも事実だ。


 俺は、チラリと梨乃を見る。


 隣合って座っているため、彼女の姿が目と鼻の先にある。


 梨乃は俺の前で開かれた参考書に腕を伸ばし、ペンで色々と書き込みながら解説をしている。


 そのため……首から鎖骨、陶磁器のような白く滑らかな肌が、どうしたって目に入ってしまう。


「……修太郎さん?」


 そこで、梨乃は俺の視線に気付いたのだろう。


 ばっと、自身の胸の上の当たりに腕をクロスして、覆い隠した。


「……べ、勉強に集中しなさい」

「す、すいません」


 これは、怒らせてしまっただろうか。


 顔を赤くして睨んでくる梨乃を見て、俺はもっと気をつけないとな、と後悔した。


「失礼します、お嬢様」


 そんな感じでしばらく経った後、部屋にメイドの千雪さんが入って来た。


「御夕食の時間です」


 俺達は千雪さんに誘われ、食事の会場へと向かう。


 先日、梨乃のお父さんと会食をした、あの広い部屋だ。


 夕飯のメニューは豪勢なコース料理。


 普通にどこかの高級レストランで出されていそうな料理の数々で、かなり美味しかった。


 前回の会食の際には味なんてわからなかったが、今回はそこそこ味わうことが出来た。


 そして、夕食が終わると、次はお風呂。


 千雪さんに案内された先は見事な大浴場で、俺一人には広すぎるくらいだった。


 一日の汗を流し終わると、その後は再び梨乃の部屋に戻り、また勉強の時間を過ごす。


 同じく湯上がりで、火照った肌の梨乃と勉強を継続し――やがて、夜11時。


「今日はここまでね」


 梨乃が言いながら、参考書をパタンと閉じる。


「明日は7時から朝食よ。それまでに起きて、学校へ登校する準備も終えておくように」

「あ、ああ」

「おやすみなさい」


 俺は梨乃の部屋を出て、客室に戻る。


 ふかふかででかいベッドの上に寝転がると、勉強で脳を酷使した影響か、すぐにウトウトして寝てしまった。


 こうして、俺の東城家での生活、初日が終わった。


 この生活、思ったよりも悪くないかもしれない――そう思ってしまった。


 ただ一つ、難点があるとすれば。


 やはり、蜜香と連絡を取り合っている余裕が無かった、という事だ。




 ■□■□■□■□




 さて。


 そんな東城家と学校を行き来する日々が、しばらく続く。


 最初こそ悪くないなどと思っていたが、やはりどこか窮屈感を感じ始めてしまう。


 学校が終わると同時に東城家に帰宅し、それから夜就寝するまでの間、基本、風呂に入るとき意外は梨乃が傍に居る形になるからだ。


 これでは、ずっと緊張状態が継続しているのと変わりない。


 学校での疲れ、勉強での疲れに加えて、梨乃疲れ(?)が一層補強される生活となってしまった。


「修太郎さん、眠いの?」


 ある日のことだった。


 浴場でお湯を浴びた後の、就寝前の勉強の時間。


 満腹の上、体が温まっていることもあり、俺はウトウトしてしまっていた。


 今日は一段と、睡魔が強い。


 もう意識が朦朧としてしまっていて、ノートに書き込んでいる文字もミミズの模写と変わり果てているくらいだった。


 そんな俺の状態は、即座に梨乃に看破された。


「私の言葉は退屈で聞く価値もないということかしら? 勉強を教わる側のくせに、随分なご身分ね」


 すぐに梨乃の鋭い声が向けられる。


「ご、ごめん! 眠くない! 全然眠くない!」


 俺は必死で頭を振るう。


 そんな俺を見て、そこで、梨乃は薄らと笑った。


 そして、持っていたペンを机の上に置く。


「修太郎さん」


 そして、囁くような声で、俺に問い掛けてきた。


「以前私に……『好き』って、言ってくれたわよね」


 あの、放課後デートの日のことだ。


 その時の事を振り返り、梨乃は言う。


「私の……どこが好きなの?」

「え……」


 俺は梨乃を見る。


 彼女は顔を俯かせ、その表情はカーテンのようにかかった黒髪で見えない。


 ……これは……かなり回答に困る質問だ。


 俺はあの時、言葉は悪いが、深く考えず、いや、深く考えすぎてまとまらず、梨乃に『好き』と言った。


 だから、どこが好きか、と問われても、何と答えて良いのかわからない。


 わかっている、ここで答えを言い淀んでしまっては、悪印象しか与えないことを。


 それでも、眠気も手伝って、今の俺は上手く言葉を見付けられずにいた。


 しかし、その時だった。


 顔を上げた梨乃が、そんな動揺する俺を見て、意外な表情を見せた。


 薄らと頬を赤くし、唇をむにゅむにゅと擦り合わせながら、照れたような微笑みを浮かべたのだ。


「答えるのが、恥ずかしいのかしら?」

「ええと、その……」

「ふふっ、当ててあげましょうか?」


 どこか嬉しげに、得意げに、梨乃は上目遣いで俺を見る。


 思い掛けない彼女の表情に、俺は別の意味で当惑する。


「あなたが、私の好きなところ……」


 それは――と、一息溜めて、梨乃は言う。


「私の、厳しいところが好きなんでしょ?」

「……は?」


 俺は思わず、そう呟く。


「厳格で、冷たくて、あなたに対して一切妥協せず、時には激しい言葉を使うこともある……そんなところが、好きなんでしょう?」


 ………いやいやいやいや。


 何故そうなる?


 梨乃は、俺がなじられて攻められて、それに興奮するタイプの性癖の持ち主だと思っているのか?


 いや、だとしても、一体全体、どうしてそういう考えに至るんだ?


 まるで経緯がわからんぞ。


 梨乃の言い放った突然の発言に、俺は困惑し思考停止する。


 そんな俺の動揺を、どうやら照れていると勘違いしているのか、梨乃は未だ嬉しそうな表情を継続している。


「さぁ、次の問題よ。参考書のページを開いて、修太郎さん」


 上機嫌な声音で言って、梨乃は俺への教育を続ける。


「……ところで、修太郎さん」


 違和感を覚えたままシャーペンを握る俺に、梨乃が更に畳みかけてきた。


「今日の私の格好を見て、何か思わない?」

「格好?」


 今日の梨乃の格好。


 風呂から戻ってきた後、梨乃はいつも寝間着に着替えている。


 正直、眠気やら緊張やらで意識できていなかったが、そう言われて気付いた。


 現在、梨乃の着ている服は、ネグリジェのような色気のあるナイトドレスだった。


 黒いワンピースタイプで、全体的に肩やおへそ回りがシースルーになっている。


 胸元もざっくり深く開いており、谷間が強調されている。


 上品さとかわいらしさ、そして色気に満ちた、大人な格好だ。


 思わず、目を奪われてしまう。


「どう?」


 梨乃は、俺にチラチラと視線を向けてくる。


 グルグルと蛇行運転する思考回路で、俺は必死に考える。


 これは、これは……。


 これは、挑発か?


 俺の集中力を乱すための。


 胸とか肩とか腰とか足とか、もし俺がジッとガン見でもしようものなら、『色欲魔』だとか『去勢が必要ね』とか、そんなことを散々言われてなじられるに違いない。


 くそ、負けてたまるか。


 俺は全力で、勉強に集中する。


 目線は前だけを見て、頭の中には参考書の問題文だけを流し込む。


 丁度今やっているのは、世界史だ。


 積み重ねられてきた人類の英知を称え、偉人達の名言を繰り返す。


『凧が一番高く上がるのは、風に向かっているときである』


 流石ウィンストン・チャーチル、良いことを言うぜ!


 俺もこの試練に決して屈しない!


 そして俺は、ひたすら蜜香の姿を頭の中に浮かべる。


 蜜香の笑顔、たわいない姿、照れて『んふふふー』と赤くなる様子。


 それで、梨乃の誘惑を遮断する。


「……今日はここまでね」


 かくして、夜の11時。


 本日の勉強の時間は終了。


 就寝の時間が訪れた。


 ……ふぅ、なんとか耐え切った。


 俺は勉強道具を纏めると、梨乃の部屋から退散する。


「じゃあ、おやすみ、梨乃さん――」

「明日は、もっと厳しくするから」


 おやすみなさい――そう言った梨乃は、既にベッドに横たわっていた。


 こちら側に背を向けて、どこかふて腐れた様子にも見える。


「……おやすみ」


 誘惑に耐え切ってみせたのに。


 なにが、彼女の機嫌を損ねたのだろうか?

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