守護精霊は僕の親友です。
「ウルリカ!」
守護精霊であるブリギッドのいるという部屋へと向かうと、そんな声と共に僕に向かってとびかかってくる人影がある。
ぎゅーっと、抱き着いてくる澄んだ声の持ち主。
「ブリギッド、なんで突然抱き着くの?」
それは僕にとって親友ともいえる守護精霊であるブリギッドである。
ルズノビア王国にとって聖女や聖人を選ぶ、国の守護精霊。……それにしてもやっぱりブリギッドは聖人である僕がこちらにやってきたら、追いかけてきたのだなと思う。
多分、王国側では大変な騒ぎにはなっているだろう。まぁ、僕にはもう関係のない話だけれども。
「ウルリカが突然王国からいなくなったから! 王国ではウルリカが攫われただとか言っていたけれど、ウルリカが簡単に攫われるわけがないって私知っているからひとまず確認しにきたんだよ! 本当にウルリカが望まずに此処にいるっていうなら困るなって思ったけれど元気そうでよかった」
僕に抱き着いたままそんなことを言って、にっこりと笑うブリギッド。ブリギッドは僕を含めて歴代の聖女や聖人に並ならぬ好意を抱いているので、結構スキンシップも激しい。逆に他の人たちに関してはほとんど関心がない。
ブリギッドは長い薄緑色の髪の愛らしい顔立ちをしている。
「ウルリカよ、その者が守護精霊か?」
サシャがそう言って声をかければ、ようやくブリギッドは僕と一緒にやってきたサシャたちに気づいたらしい。
そちらに視線を向けて、サシャを見て面白そうな顔をする。
「ウルリカ、この人、凄い力強い魔力してるね。人でこれだけの魔力を持っているのって珍しい!!」
僕がサシャの魔力がまっすぐで、心地よいと思っているのと同様にブリギッドの目から見てもそれは興味深いものだったみたい。
僕とブリギッドって結構似ているんだ。気が合うっていうか、好きなものも似ていたりする。だからきっとブリギッドもサシャのことを気に入るだろうなとは思っていた。
「ね、凄く力強くてまっすぐな魔力だよね。サシャって見た目もこんなにキラキラしてて、可愛い女の子なのだけど、その力も凄いと思うんだ」
「分かるー! 私もどちらかだけ優れている人ならたまに見かけたことあるけれど、両方揃っているなんてすごく珍しい! この人間、サシャっていうの? ぴったりの可愛い名前! 私、この人間、好きかも!」
「サシャって名前可愛いよね。僕もサシャのこと、好き! ブリギッドなら僕と同じくサシャのことを気に入ると思っていた。サシャは、この帝国で一番偉い女帝なんだよ。僕、サシャに誘われてそのままこっちに来たんだ。このまま僕は此処で暮らしていく予定なんだよ!」
「女帝って、国で一番偉いってことだよね? この面白い人間が一番偉い国なら確かに楽しそうかも。あの王国だと結構王様って色々煩かったからね。視線も気持ち悪いもの結構あったし。精霊である私が何でどうでもいい人間を相手にすると思っているんだか。ウルリカがこっちに来たって聞いてよく分かんないこと言っている人間結構いたの。偽物の聖女は追い出したとかいってよく分かんない人間連れてきていたり、国を裏切った聖女なんて必要ないから新たな聖女を選ぶべきだっていったり……なんで私がそんな指図されなきゃならないんだろうってむかついちゃった」
「あれ、もしかしてなんかやらかしてきた?」
「ちょっとだけね。あんまりやりすぎると人はすぐ死んじゃうから」
ブリギッドはそんなことを言ってむくれた顔をしている。
昔の聖女や聖人から「人をあまり傷つけないで欲しい」とブリギッドは言われたことがあると言っていた。だからそれを律儀に守って手加減はしたらしい。
ブリギッドは自分の選んだ聖女や聖人のことは本当に大切にしている。
「ウルリカ様、守護精霊様を紹介していただけますか? またお二人が綺麗だとか、可愛いだとか好きだとか言ったため、サシャ様が照れています」
ユエバードにそう言われて、ブリギッドと二人してサシャの方を見る。
「わぁ」
「まぁ」
僕とブリギッドはキラキラした目で、サシャを見てしまう。
「ね、ブリギッド。サシャって凄く可愛くない? あんまり可愛いって言われ慣れてないんだって。だから照れてるんだって」
「同意。凄く可愛いと思うの。私、本心を隠している人間よりこういう素直な人間のが好きよ」
うんうん、ブリギッドはやっぱり分かってるね! サシャの可愛さに同意してくれて僕はなんだか嬉しくなった。
「こほんっ……お二人がサシャ様を気に入ってくださったのは喜ばしい限りですが、ご紹介をお願いします」
ブリギッドと二人できゃっきゃっとサシャが可愛いなと言っていたら、ユエバードに咳ばらいをされた。僕はブリギッドのことを二人に紹介する。
「この子が守護精霊であるブリギッド。僕を聖人に選んだ本人で、僕の親友なんだ。ブリギッドは凄く力の強い精霊なんだよ」
ブリギッドはなんていうか、今の所僕の唯一の親友だ。
聖女として引き取られる前は生きていくのに必死で、友情を誰かと築く余裕なんてなかった。聖女として生きていくようになってからは僕が特別な立場になったからこそ、なかなかそういう相手は出来なかった。
僕にとって親友と呼べるのは、ブリギッドだけだ。
「私はブリギッド。精霊だよ。これからこの国にいるつもりだからよろしくね」
ブリギッドがにっこりと笑いかければ、サシャはようやく我に返って挨拶していた。
「我はこの帝国の女帝であるサシャだ。よろしく頼む」
「一人称我なんだ! それも個性的で可愛いかも」
ブリギッドはサシャの言葉に食いついて楽しそうにしている。
「ね、僕もそう思う。サシャの一人称って可愛いよね」
僕が同意して頷いていると、またサシャが照れていて可愛かった。
ちなみにその後、ブリギッドは女の子に見えるけれど精霊なので男や女といった性別はないというのを二人に告げたら大変驚かれた。精霊のことは案外、皆よく知らないものらしい。
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