サシャは可愛い女の子だなと思った。

 じーっと僕はサシャを見る。

 サシャが僕のことを嫌ってしまったらどうしようか。そうなったら悲しいなとそういう気持ちでいっぱいだ。



「ねぇ、サシャ。僕、昨日なんか嫌なことしちゃった?」




 不安になって問いかける。




 僕の声にサシャが顔をあげる。僕が想像していた表情と違って驚

 だってね、サシャが怒っているのかなと思ったんだ。僕が酔っぱらってサシャに嫌なことをしてしまったのかなって。

 だけど……サシャはそんな顔はしてなくて、寧ろ僕の発言に慌てている様子だった。





「ウルリカ、そんな顔をするな! ウルリカは嫌なことなどしていおらぬ!」

「本当? ならどうして、サシャは目を合わせてくれなかったの?」






 サシャの顔をじっと見て、そう問いかけれる。サシャが「うっ」と声をあげる。僕の可愛さにやられたのかな?

 じーっと見つめれば、サシャが観念したように言う。






「嫌な思いなどはしておらぬ。ただ……酔っぱらっていたサシャが、我のことをその……き、綺麗だとか、か、可愛いだとか言っておったから……」




 サシャはそう言いながら、少しだけ顔を赤くしていた。






 傍に控えていたユエバードや侍女たちがそれぞれ反応を示す。多分、サシャは僕が酔っぱらっている時のことを他の人に話したりしていなかったんだろうなと思った。

 ユエバードは面白そうな顔をしているし、周りに控えている侍女たちは「まぁ」と声をあげている。

 嫌われていなかったなら本当によかったと思う。








「酔っぱらっていて本心が出ただけだと思うよ。僕はサシャのこと、可愛いなぁって思ってるもん」




 サシャの様子を見て思わずにこにこしてしまう。








 だって酔っぱらった僕が言った言葉でこんな反応をしているなんてすごく可愛いと思う。

 キラキラしていて、綺麗で、まっすぐで。

 何にも動じないような強さを感じさせる人。

 それがサシャなのだけど、こういう可愛いって言われ慣れてない感じとか、照れているところとか、凄く可愛いって思った。






「なっ……ま、まだ、酔っぱらっておるのか!!」

「ううん。今の僕は素面だよ? 全然酔っぱらってないよ。凄く頭が働いているよ。良く寝たしね。万全の状態だから、僕の言っている可愛いは本心だよ?」






 本当に可愛いなぁと思う。




 というか、サシャは可愛い女の子なんだよ。それなのにそれをサシャ本人が自覚していないのは凄くもったいないと僕は思っている。

 もしかして今までサシャのことを可愛いっていう人いなかったのかな? なんでだろう? 周りの見る目がないのかな? 

 それともサシャが皇族だからこそ、そういう風に言えなかったとか?






 そんなことを考えながら、僕は顔が赤いサシャに追撃する。





「こうやって可愛いって言われて顔を赤くするのは可愛い女の子だよ。それにサシャって僕みたいな可愛いもの好きなんでしょ? そういうところもサシャの女の子らしい可愛い一面だと僕は思うよ? サシャってあんまり可愛い服とかいつも着てない感じかな? 僕、サシャのかっこいい姿もいいと思うのだけど、可愛い服を着ても似合うと思うんだけどなぁ」





 サシャって、男性風の衣装ばかり着ている気がする。




 サシャ自身がその服装の方が動きやすいからだろうけれど、絵本の中のお姫様みたいにキラキラしたドレスを着ても可愛いんだろうなって思う。ワンピースとかもいいよね! 侍女たちのきている侍女服も着たら可愛いんじゃないかな。




「ぶっ」




 僕は本心からの言葉を口にしているのだけど、何故かユエバードが笑いをこらえきれないとでもいう風に咽ている。

 そんなユエバードをサシャがぎろりと睨みつける。

 そして、僕の方をサシャは向いて言う。






「……ウルリカが我をその、か、可愛いと思っておるのは分かった」

「本当に分かってる? サシャは凄く可愛い女の子だよ?」

「そ、それは分かった! し、しかしだ。我にはウルリカの言うような可愛い服は似合わぬ!」

「どうして?」

「こんな体格が良い女に似合わぬだろう」

「そんなことないよ? きっと可愛いよ? 僕きっとそういう服を着たサシャを見たら、可愛い可愛いって口にすると思うよ? ね、サシャ。一人で着るのが恥ずかしいなら僕と一緒に着よう? お揃いで着る姉妹コーデみたいなのもあるって聞いたことあるもん」






 サシャはなんだかんだ僕の可愛い顔が気に入っているので、頼み込めば頷いてくれそうと思いつつ問いかける。

 サシャと一緒に同じコンセプトの服を着ると凄く楽しそうだよね。






「う……」

「サシャ、駄目?」

「そ、そんな顔をするな! 分かった! やってやろう!」

「本当?」

「……我に二言はない」

「やったー!」





 僕はサシャが頷いたことが嬉しくて、思わずその場で飛び跳ねてしまった。後から喜びすぎたとはっとしたけど!








 そういうわけで、僕はサシャと一緒に可愛い恰好をすることになった。

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