第5話 治らなくても
昨日に引き続き、「晴天の迷いクジラ」を読んだ。
登場人物たちの『死にたい』の背景を読んでいるうちに、
私も彼らの車に乗って、死ぬ前にクジラを見に行っているように感じていた。
途中、鬱の薬を飲み忘れた男性デザイナーが倒れてしまい
「薬、のみ始めたらさ、急にやめたらだめなんだよ。少しずつ減らしていくしかないの」
と女性社長に叱られていた。
私が薬を飲み始めたのは2年前。
薬を飲みながら働き続けて、それ以上働けなくなって休職をして、復職をして、今また休職をしている。
その間、お医者さんに相談して種類や量は変わっても、薬自体は飲み続けてきた。
「自分の身体がもうすっかりソラナックスとルボックスという二つの錠剤に乗っ取られている気がした」という男性デザイナーに、私も乗っ取られているのだと気がついた。
私が心療内科に通い始めたのは2年前。
私の身体は、飲み始めたばかりの彼よりももっと、薬を『摂取して当たり前』のものとしているだろう。
鬱になる前は、私には不要な薬だった。今はもう、無くてはならない薬。乗っ取られてしまったから。やめることはできない。
それに、薬をやめたことによる症状を克服できたとしても、鬱は治らない。
そう考えると、どうしようもなくぞっとした。
鬱は心の風邪、という言葉をよく聞く。
誰でもなりうるし、何度でもなる。そういう病気。
けれど、2年間も風邪が治らないなんてあるのだろうか。
私の場合は、風邪ではなく、慢性的な持病になってしまっているのではないだろうか。
そんなことを思いながら、本を読み進めた。
最後、彼らは東京に戻っていった。
薬が残り少ないから、まず心療内科に行かないといけない。大きなぬいぐるみを買って思い切り泣く。自分の部屋で。鍵を閉めて一人で。だけど僕は死なない。たぶん。
男性デザイナーが自分の心にゆるく誓った言葉に、一緒に心の旅をしていた仲間として、そう思ってくれてよかったと思った。
鬱と付き合いながら、それでも多分死なずに生きていく。
それでいいんだよと、彼に声をかけたくなった。
そして私自身にも、声をかけられた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。