第4話 先延ばし
東京を出る時に、一冊の本を持って来た。
窪美澄さんの『晴天の迷いクジラ』
未読の本だけれど、「自殺をしようとしていた二人(男性デザイナーと女性社長)がクジラを見ようと旅に出て、さらにもう一人、生きるのをやめようとしていた少女を拾う」というあらすじに引かれた。
女性社長の「もう、頑張れる気がしなかった。自分はもう十分すぎるほどやったのだから」という言葉が痛い。
評価者から低い評価とともに「もっと頑張れ」と言われた時、思わず口にした「もう今以上は頑張れません。今までも頑張っていたんです」
という言葉を思い出す。
今読んでいる場面では
大量に飲んだ睡眠薬を社長に吐き出させられたデザイナーが、今度は練炭自殺をしようとしている社長に対して、たまたまテレビに映っているクジラを見に行こうと誘っている。
「先延ばしにすればいいじゃないですか。どうせ死ぬんだから。死にかけてるクジラ見に行ってからうちらも死にましょうよ。どうせ死ぬなら」
あの部屋にいて死にたくなることから逃げてきた自分と重なる。
私も逃げて、死ぬのを先延ばしにしているだけだ。
いつまでも逃げていられるわけではない。休職は期間が定められているし、休職期間が終わって復職したら、会社はまた私に退職勧奨をするだろうし、復職できなければ会社側はクビに出来る。
この逃避行は何かの解決策ではなく、来るべき断罪の先送りだ。
読んでいて心が痛い。
でも、これは今読む本だとも思う。
この二人はこれからどうなるんだろうか。
せめて、小説の中の彼らだけは、死ぬ以外の出口を見つけてほしいと思う。
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