第48話 帝国と未完成な・・・
帝国を目指して、各村で補給をしながらも魔物を狩り進む六千人の狩猟移民・・・。
正直言って真竜以外の魔物ならアオナなしでも敵なしの軍隊である。
都度、要塞を展開しながら無理なく進軍する。
旅路はとても順調だった。
各村で様々な出会いと別れを繰り返して移民達の亜人に対する感情は少しずつ変化していた。
人々の暮らしは概ね豊かだった。労働力は魔道具であるゴーレムによって賄われていた。
弱い魔物もゴーレムが食用として狩る。農作業もゴーレムが自動で行う。
人々は魔力供給が終われば皆、自由に娯楽を楽しむ。
王国にいた移民の人々はその姿を見て、暮らしぶりの違いに衝撃を受けた。
そんな姿を目の当たりにしながら僕達は帝国へ辿り着いた。
5日間の旅路の末に訪れた帝国は・・・圧倒的に技術が進んでいた。
日本の知識を持つ僕ですら未来を感じたのだ。
浮遊する車の様な乗り物。首都をぐるりと周る動く歩道。それは電車の様に人を高速で運び街中の移動を可能にする。中央にそびえ立つ塔は東京スカイツリーを思わせた。
建物は高層ビルの様に高く個々のスペースはとてもコンパクトだ。帝国の人口は全体で四万人程だけど、なんとこの首都に大半の三万人が住んでいるらしい。
首都は王都よりも随分とコンパクトだった。共有スペースは広く取られているが居住区がまとめられていて商業区、農業区等も含めて動く歩道で接続されている。各娯楽施設も繋ぐ環状線の様になっていてとても効率が良い。
変換効率の高い魔道具で光源、熱源、水源が管理される。畑は何層にも重ねられた、これまたマンションの様になっている。日本のSF、近未来を思わせた・・・。
「文明レベルが王国、公国と段違いだね・・・こりゃ王国、勝てる訳ないよ」
移民のみんなも目を丸くしていた。
・・・
僕達は帝国で魔道具一式を受け取った。
『アオナ、この【クロノグラス】に多重展開で魔力を注ぎ続けておいて。消費魔力自体はたいした量じゃないから。神様には内緒にね』
僕はアオナにこっそりと念話を送った。
『・・・何か意味があるんだね。わかった』
僕は最後の下準備を終えた。
・・・
「この都市はナイウが中心になって築き上げたの?」
「基盤はアルラが最初から構想していた。吾輩は魔物から魔石を回収したりが主な業務だったな。他にも優秀な技術者が多数、ここにはいる」
合理化を進めミニマムに生活基盤を整えた上で、共産主義の如く自由に暮らす。
生活基盤はゴーレムによってオートで作られる。労働は娯楽と趣味の延長での技術推進に特化する。それは、より効果的で強固で豊かな生活を支えるシステムに組み込まれていく。
安全で潤沢な世界に置ける最適解。そして病がなく寿命が著しく長い種族。
盤石だ・・・。停滞しないのは興味と好奇心で支えられた変化を楽しむ心のおかげだろうか。
「完成してしまっているね」
アオナは呟いた。
「争いはないわけではないが・・・全ての人が豊かに過ごせる基盤はある。力による衝突は吾輩がねじ伏せる」
魔王ナイウが想い描いた理想。それはアオナの想うそれに非常に近かった。
「しかし、完成など・・・程遠い」
彼は、少し遠い目をして溢した。
「何が足りないの?」
アオナは素朴に疑問に思い質問した。
「それが・・・吾輩もはっきりとは分からないのだ。ただ漠然と何かが薄れていく感覚はある。非常にゆっくりとした衰退を感じながらも・・・生きている」
完成とは・・・人とは最も縁遠い形態なのかもしれない。
未完成が絵を描いた様な存在だと、僕は想う。
「贅沢な悩みだね」
ならばなぜ・・・人は完成を目指すのか?
そこにはそれぞれの想いがある。
僕はその答えの一つを知っている。
「まったくだ・・・」
僕はアオナをそこへ導く。
***神界***
「アオナは順調に戦争を収束に向かわせながら帝国に辿り着いたみたいね♪」
「なんだかロールプレイングゲームを見ている気分ですねぇ〜」
「もうすぐ、クイールの世界を縦断する事になりますね。海を渡れば世界一周ですし」
「おりを見てアップデートが必要かもね♪」
「えぇ〜・・・。何をやらかすつもりですぅ?」
「そんな嫌そうな顔しないでよ。このままじゃアオナが退屈しちゃうかもしれないじゃない?」
「別にやり込み要素はいくらでもありますけどねぇ」
「それもそうなんだけどね♪でもある程度の負荷は必要じゃない?」
「それは帝国の停滞を見て感じた事ですか?」
「そうだね・・・。負荷を減らした停滞・・・。ナイウが感じている危機感は間違ってはいないと私も思うし」
「ナイウさんは特異点でしたねぇ。想定外な低確率を引いた現時点の最高到達者でしたし」
「システム上の理論値にかなり近いところまで行ったんだろうね。彼の存在はあの世界にとってはとても重要だったと私も思うよ」
「そんな彼にとってもアオナさんの出現は大きな意味を持ったのかもしれませんね」
「そうね・・・。でもそれだとアオナの負担が大き過ぎる気がしちゃうのよ・・・」
「今のところ、退屈はしてなさそうですけどねぇ♪」
「たしかにそうね♪まだ暫くは干渉せずに見守るつもりだけど、アオナに関しては必要があれば干渉して行こうと思うの」
「マスターに絡まれるアオナさんカワイソスぅ・・・」
「それはどういう意味よ!!?」
順調に最後のピースも揃った。
あの子もまだ、気付かずにいてくれている様だ。
帝国とナイウの悩み。
これは・・・神様にとっても同じ事・・・。
私達がいますが、私達はあくまでも従者。
そこに、唯一とも言える『対等になりえる存在』が現れた。
私は・・・いえ、私達は・・・彼女の退屈を破壊する!
魔法のお守り【世界を創る物語】 フィガレット @figaret
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