第47話 虐殺の真実
アオナのその一言を皮切りに、潜伏していた帝国軍が東西から王国軍を襲う。
宣戦布告もなしの不意打ち。騎士道もへったくれもない。卑怯千万である。
隊長と話している間にも囲い込みは始まっていた。
慌てて応戦と囲われない為の陣の展開が指示されるが完全に後手である。
しかも、亜人部隊の魔法は人族のそれを圧倒していた。
「
どうやら危惧していたイレギュラーはなさそうだ。
「ラッドは砦の方を押さえて敗走する兵を全部止めてね。ヒスイは王国側に逃げる兵を宜しく、殺しちゃダメだからね」
手際良く包囲網を展開していく。
「ナイウは残った帝国兵を二手に分けて東と西を宜しく。殺さないで全員を捕縛してね」
「戦力では圧倒してるがそこそこ強いのもいるから手加減が難しいが・・・まぁ吾輩に任せろ!」
「アルラとタマミは危なそうなところをフォローで宜しく♪」
「私もやるの!?」
「大丈夫、目撃者はいない」
「移民のみんなは見てるんですけど?」
「大丈夫、数ヶ月以内に王国では革命が起きて今日の出来事は中立的な話し合いだった事に変わるから」
「真っ黒だニャ!!」
渋々とタマミも王国軍を囲む部隊に加わる。
「手足の欠損は後で治せるから、無力化する際はそれで宜しく。でも麻痺や気絶を狙えるなら出来るだけそうしてね」
通信魔道具を重要人物には渡しているので情報戦でも圧倒する。
「さて、一番の精鋭である隊長さん達を後は無力化したい訳だけど・・・」
恐らく隊長の実力は公爵に匹敵する。
正面の戦力はアオナとラットのラッドのみでの対応となっていた。
「これはどういう事ですか?アオナ殿・・・」
「目撃者を全員捉えて誘拐する事にしました」
「・・・我々を馬鹿にしているのですか!!」
「帰れないし、進めば死ぬんだから留まるしかないでしょ?留まる事も許されないのなら・・・私が連れ去ってあげるよ」
アオナは・・・全部、持っていく事にしたらしい。
「王国軍三千人を全て捕虜にするというのか!?」
「ん〜、正確には死んだ事にします。目撃者はいません」
「監視や王城には千里眼を持つ魔法使いもいるんだぞ!」
「あ、それ遮断しています」
「・・・はぁ?」
「事が終わった後、王国の人がここに来るとそこには巨大なクレーターの数々が。真竜のブレスによって地形ごと変えられるほどの攻撃を受けた王国軍は全員死亡した事になります。後で家族がその一報を受けて自殺しそうな人がいたら聞き取りをするので教えて下さいね。誘拐しに行きますので」
アオナはサラッと今回の犯行の全容を告げた。
***回想***
「もうさ、全員死んだ事にするのが手っ取り早いと思うんだよね」
アオナが呟いた。
「え・・・殺しちゃうの!?」
「違うよ。死んだ事にするの。ラッド、魔法でこの状況を監視している人や、操る類の魔法を使われている人はいそう?」
「人を操る魔法はないよ。
「出来そう?」
「ヒスイが得意だよ♪あの子はエネルギー属性の中でも特殊なマナ魔法を持ってるから弱い魔法はエリア単位で遮断できる。遠距離からの魔法は強い干渉が出来ないから砦も含めて展開出来ると思う」
「じゃぁ、隠蔽工作は準備万端だね」
「任せろワン♪」
アオナは全て抱える覚悟をしたのだ。
「おかしな人も混ざってるだろうし、戦闘狂とか犯罪者とか。拘束の方法も考えとかないとだよね」
「殺しちゃダメなの?」
「線引きが難しいんだよ。人は変われるし・・・でも変われない人もいる。相応の報いは受けるべきだけどそれを正確に判断出来る人はいない。人を正しく裁くのは・・・本当に難しいよ・・・」
彼女にも許せない人がいる。しかし、全てを知っている訳ではない。
「この世界には魔道具もあるし、ちゃんと法整備を行えばより正確な審判は下せるかもしれないね。聖教国に戻ったらそっちも手伝わないとだけど・・・その前に王国での革命が必要かな」
「なんで?」
「連れ去る人達の家族が王国には大勢いる。知人もいるだろうし、今のままじゃ話にならない」
「無血勝利の革命なんてありえないよ?」
「そうだね。だからトップを置き換えて掌握する。私は王国を私の思い通りにする事を決断したんだよ。変えるのは今後の侵略を止める事と亜人差別を少しずつ緩和していく政策。帝国、王国、公国、聖教国を全て掌握して仮初の平和をつくるよ。その中で、未来をみんなで考えよう」
神様になると言ったのは・・・そういう事か。
そして、自分自身でそれを『仮初の平和』と呼ぶ。
その先は・・・これから人々が想いと魂の循環の中で築いていくのだろう。
「拘束は魔道具である程度は出来るけど高度なやつは大量生産出来ないね」
「連れて帰ってからは一定の区画に押し込めて革命が成功するまでは大人しくして貰うしかないかなぁ・・・殺人鬼や囲いの中でも悪さしそうな人は牢屋に入れないと・・・。そっちの方が大変そう」
「ギルドの魔道具と同じものをアルラに貰って選別しないとだね」
「人がやっていい事じゃない気がするけど・・・神様になるつもりでやらないと精神が持たないわね・・・」
「僕やヒスイは勿論のこと、アオナには沢山の味方がいるんだから、あまり一人で抱えちゃダメだよ?」
「ありがとう♪」
***回想完***
「我々に勝ち目はない様ですね・・・」
隊長は全てを理解した様だ。
各方面では圧倒的な力量差で王国兵が次々と無力化されていく。
アオナは常にマップで確認しているが、取りこぼしはなさそうだ。
「我々はこれからどうなるのだ?」
「一緒に聖教国まで来てもらいます。皆さんは王国では死んだ事になります。その後、公爵と話し合った上で王国で革命を起こします。秘密裏に私が王城に入り込んでもいいんですけど・・・それは公爵との話次第ですね。あなた方は王国に忠義を誓っているのですから、王国は残してトップと間違ったシステムだけを正します」
「無茶苦茶だな・・・あなたは神にでもなるつもりか?」
「巷では女神様と呼ばれているらしいですよ?」
「人の噂も・・・案外、的確な事もあるのだな。私には貴方がそれにしか見えません」
「不本意ですけど、今はそれでいいです」
隊長はすぐ様、降伏してくれた。戦わないで済んで本当に良かった。
三千人の捕虜。移民と合わせて六千人。どう考えてもキャパオーバーだ。
それでも直ちにこの場所を移動しなければいけない。
王国軍の負傷者を多数引きずっての移動はかなり大変だったが帝国軍が優秀で上手く様々な方法を用いて移動してくれた。元々、捕虜を移送する準備はある程度はあった様だ。
この辺りはナイウに感謝。彼が用意していたらしい。
アオナは砦も回収して・・・ヒスイに破壊の限りを尽くす事を命じた。
「わ〜い♪大暴れだワン!!」
と、大はしゃぎしながらブレスを地面に連発。あちこちにクレーターを作る。
見る見るうちに渓谷が出来た。フェンリルドラゴンやばすぎぃ・・・。
それを離れて見ていた王国軍と移民、そして帝国軍やナイウまでも・・・
「あんなの勝てる訳ないだろ・・・」
「人の尺度じゃねぇなぁ・・・見ろよあの渓谷、底が見えないぞ?」
「災害・・・というか天変地異だな・・・同盟としては心強いが・・・」
「吾輩の見立て通りだな。アルラはもっと吾輩を褒めるべきだ」
「あぁ〜・・・流石に納得したわ。あれは争うとかそういう次元じゃないわね・・・」
ドン引きだった。
跡形もないので隠蔽工作すら必要ない。ジャミングもこの大虐殺の余波と判断されるだろう。目撃者もいないし、王国軍は皆、戦死したと判断される事だろう。
時間稼ぎは十分だ。王国にはもう戦力はほとんど残っていない。革命軍は完勝するだろう。出来れば公国が王国に介入して諌めて貰うのが好ましい気がする、とアオナも言っていた。
ジャミングは常に展開しながら六千人の大移動が始まった。
帝国軍は念の為に、村に残り王国の様子を伺う。
王国から事態の説明を求められれば、真竜の怒りに触れて王国軍は跡形もなく葬り去られた。と伝えて貰う事にしている。
しかし、そうなると王国の怒りは聖教国に向くだろう。
遺族達も悲しみと怒りに燃える事となる。だからこそアオナが掌握した革命が必要になる。革命が成功すれば王国軍の人々は犯罪者を残して皆、帰還する事となるだろう。
こうして、王国の帝国侵略は一時的に葬り去られた。
まだ見ぬ王族達は、果たしてこの一報を受けてどう動くのだろうか・・・。
「ねぇ、王国で革命が起きたら王国に帰りたい人も沢山いるよね?このまま先に王国の革命やった方が早くない?」
僕はアオナに素朴な疑問を投げかける。六千人の移動はかなり大変だ。手早く問題解決をして帰した方が楽な気がする。
「ん〜、それをやるとまた争いが生まれそうなんだよね。力があれば、変わった事を戻そうとする人が現れる。憎しみの火は消えていない。それに人の心は変わる。今は納得して戻っても、また変わってしまうと争いが起こる」
そうか。今回、侵攻を未然に防がなかったのは王国の戦力を根こそぎ奪う事にも繋がった。最初からそう考えていたとは思えないけど、今回の決断はそれも加味されていた。
根こそぎ戦力を奪われて、王国は国民の信頼も失う。
革命は容易に成功するのかもしれない。そしてその後、変革を行いそれが終わった後で捕虜を帰国させる。更に、その過程の中で亜人と関わり聖教国のあり方を知る。
犯罪者の裁きまで請け負うのだから、とんだボランティアだ。
新しく変わる王国はアオナに頭が上がらないな。
六千人の新しい旅路を背負ってアオナは帝国を横断し海へ向かう。
道中、魔道具による選定と危険人物の収容。
「その者達をわざわざ聖教国に連れ帰るのはしんどかろう?吾輩が帝国で預かろう。王国との因縁に終止符を打って貰ったのだ。これくらいせねばバチがあたる」
ナイウが気を利かせてくれた。正直、凄く助かった。野放しにすれば移民を無差別に襲う恐れのある者。強奪、強姦を平然と行う危険性がある者を集団には置けない。拘束し足を引っ張る者は非常に厄介だった。
「なに、殺しはしないし最低限の生活は帝国でも保障してやるさ」
正直言って聖教国に連れて帰っても扱いは変わらない。殺人、強姦の犯罪歴のある、明確な悪意を持つ人物数十人を帝国に預かって貰う事となった。
預かってもらう人達の経過は今後も綿密に見守る事となる。
安易な裁きは、新しい憎しみを生む事になる。
憎しみの連鎖と世界に循環する想いの継承。
この世界もまた、本当に・・・不完全だ。
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