第46話 決断
宴は夜遅くまで続き疲れた人々は泥の様に眠った。
アオナも含めて、様々な情報交換、会話の中で生まれた繋がりはとても有意義なものだったのだと僕は思う。
そう言えばこんな話もあった。
「アオナの持っている黒竜の血の杖は王国のものではなかったんだな。てっきり盗んできたのだと思っていた」
とアルラは笑っていた。やりかねないと思われたのだろう。
「これは神様に貰ったものだからね。複製したんじゃないかな?」
その通りだった。チートアイテム作り放題、なんともありがたみのない話だ。
加えて僕はナイウにどうしても確認しておきたかった事をこっそりと話した。
「そう言えば僕ら、
目当ては残る最後のピース【クロノグラス】の所在である。
「ん?なんでだ?あれは強力なものや世界のバランスを崩すものも多い。魔物の氾濫の前に滅んだ文明はこれのせいで滅んだと言ってもいい。その頃を知っている者は少ないがな・・・俺の知る限りでは吾輩とアルラくらいじゃないか?」
「だからこそ、管理しておきたいんだ」
「そうね、あと出来れば強力な魔法の継承もコントロールしたいと思ってる」
アオナはそんな事を考えていたのか・・・。
「それこそなぜだ?」
ナイウは不思議そうに言った。
「ん〜推測も含んでるんだけどね。人族が強い力を持つ程に魔物も強くなる。それなら強い力は個々が持たない方がいいんじゃないかと思って」
「面白い見解だな」
「イタチごっこなんだよね。魔物を倒す為に強い力を持っても、持つ程に魔物は強くなる。
被害も増える一方だし。生活が便利になる魔道具や魔法は発達するべきだけど武力は持つ程に悲しみが増える」
「それはしかし、みな納得しないだろ?既に力を持つ者が独占し優位に立ってしまう」
「うん。だから全部、私が貰う」
絶対的な強者を一人置いて、その元に平等を創る・・・。でもそれは・・・
「アオナは神様になりたいの?」
そう、それは神様の存在理由な気がした。
「なりたくは・・・ないかな」
そう、彼女は神になる事を望んではいない。
「でもなるの」
彼女がそこまでしなければいけない理由なんて・・・
「アオナは自由だよ・・・?」
でも僕はそれを望んで・・・導いたのかもしれない・・・。
「うん、自由にはさせて貰う。私は私のままで神様になるよ。今は女神様だっけ?力を全て集めて、封印する。私の力は、ヒスイで相殺されている。私はこの世界のイレギュラーなんだよ。私の存在が、この世界の欠陥を補填する。歪でも成り立つ方法なんだと思う」
人と魔物のバランス。ヒスイと言う最強の魔物を従えるアオナはこの世界が抱える均衡の問題を壊す。人族は武力を衰退させて別方向への進化を目指す。
「強引な方法だな」
「被害を最小に抑えるには最適じゃない?」
ナイウは少し考え込んだ後・・・応えた。
「帝国が管理する『
魔王はすんなりと受け入れた。
「随分あっさりと受け入れるんだね」
アオナは意外そうだった。
「それは吾輩がやろうとして出来なかった事だったからな。吾輩では力不足だった・・・だが、アオナなら出来る!なら託すべきだと思った」
そうか・・・だから魔王なのか・・・。彼は強引な手段も用いて今の帝国を創ったのだ。
力を集める事で・・・。彼はアオナと同じ未来を見ている。
だからこそ、言葉以上に伝わるものがあったのだろう。
後日、受け渡された
【クロノグラス】も含まれていた。
パズルのピースがついに集まった。ついに、世界は・・・繋がる!
・・・
一夜明けての朝。今日、王国軍が攻めてくるらしい。
帝国軍はと言うと元気いっぱいに朝食を食べている。
なんとも余裕な雰囲気だ。
「アオナはどうするの?」
放って置けば、王国軍は壊滅的被害を受けて敗走する事になるだろう。
見知った人も含まれる王国軍・・・見捨ててしまって本当に良いものか・・・?
「ずっと考えてはいるんだけど・・・彼らは望んでこの絶望的戦地に足を踏み入れたんだよね・・・。それを踏み躙るのも気は引けるんだけど・・・」
多くは王国に忠誠を誓う者、そして亜人に怨みを持つ者だ。
難儀なもので死を受け入れた集団とは恐ろしいものである。
何をするかわからない。
「出来る事を・・・やろうかな。ここでの揉め事はもうないと思っていいかな?」
「祭りの間、みんな積極的に『亜人と移民』の立場で話をしていた。喧嘩もあったみたいだけど重傷者は出てないしスッキリとした顔をしたから大丈夫じゃないかな?」
昨日の祭りの中、各地で言い争いはあった。しかし、余程の命に危険のあるやり取りでなければ放置した。中には木刀で決闘の様なやり取りもあった様だ。
亜人からしてみれば侵略者を返り討ちにしていただけで、被害もゼロではなかったのだからいい迷惑だ。命を落とした者の親族からすればそれこそ盗賊と変わらない。
しかし、今回は僕達と魔王ナイウの顔を立てて穏便に済ませて貰った。
移民達は既に一度、亜人への怒りを溜飲して貰っている。しかし、多くの者にとってそれは生きる為の選択であり完全な解消にはまだまだ程遠かった。時間がかかる事なのだ。
これから攻めてくる人達も・・・。
「分かり合えない訳じゃないんだよね。それが昨日分かったから・・・行こうか」
そうか・・・アオナはそれも・・・自分でやるつもりなんだね。
「全部一人でやるつもりなの?」
それは僕がさせないけど・・・。
「いや、みんなに手伝って貰うよ。勿論、ラッドにもね♪」
そっか、なら大丈夫だね。
***
決戦の場は砦とこの村の中間に位置する草原。王国軍は陣を敷き隊列をなしている。王国軍は三千人に増えていた。村を侵略しそこを新しい拠点とする計画の様だ。
そこで、僕達は・・・移民全員を連れ出した。
勿論、戦闘には参加させない。要塞も展開して亜人達もそこを拠点にする。
亜人帝国軍、三百人。移民三千人。そして・・・
僕とアオナとヒスイ。
ナイウとアルラとタマミには一緒に最前線に来て貰った。
「で、どうするつもりなのかそろそろ説明してくれるかしら?私まで戦場に連れ出して・・・私はもう一応ギルド職員じゃないけど中立のギルドとしてはこんな場所には間違ってもいちゃいけないんだけど?」
タマミが不満を言っていた。そりゃ、そうだね。
・・・
「ラッド、昨日作って貰った姿を変える魔道具を出してくれる?」
「アオナが使うの?意味ある?」
「そっちの方が効果がありそうだから宜しく」
僕はアオナに頼まれて昨日、大量の姿を変える魔道具を作らされた。隠蔽魔法の応用でエルフに見える魔法をかけた。看破スキルの高い人にはバレるけど。
「じゃぁ、そろそろいこっか」
アオナはまるで散歩にでも行くかの様に・・・王国軍に向かって歩き出した。
怪しいエルフの女の子が一人、真っ直ぐ歩いてくる。
「貴様!亜人だな!一人のこのこと現れるとはバカめ!」
数人の先頭にいた兵士がアオナに向かって斬りかかる。多重干渉遮断を展開しているので攻撃が届く訳がない。群がる数人の兵士それを・・・
『ラッド、麻痺で無力化を宜しく』
無力化した。
どうやら前線の人員に精鋭はいない様だ。
そして、見知った顔が目についた。
「昨日ぶりだね。隊長さん」
「亜人だったのか?」
「いや、姿を変えているだけ」
「なんの冗談だ?」
「亜人なんて姿が違うだけでしょ?」
「言いたい事はわかる。が、戦わない理由にはならんな」
隊長さんは冷静に応えた。そう、話し合いでは・・・もう止まらないのだ。
「王国に帰って王様に面目が立つ状況ってなにかないかな?」
「村を奪還して国境線を変えた報告をする以外にはないな」
奪還・・・か。この土地は元より帝国領なんだけどね。
「後は死ぬしかないって事?」
「逃げ帰っては家族が処刑される。私はここに死にに来た」
「ここにいる人、全員がそんな感じ?」
「死に場所を求めてやってきた者もいる。勝てると思って勝ち馬に乗ったつもりの馬鹿もいるな。他にも戦闘狂、殺人鬼、犯罪奴隷、戦えるものは全て連れてきた。皆、敗北は死と理解している。元より逃げ道はない」
・・・
「そう・・・。じゃぁ、全員死んでもらうしかないね」
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