第45話 アルラの過去
「アオナは神の使徒様だったんだな」
やっと落ち着いた魔王が話し始めた。
「あれ?ギルドには伝わってると思ってた」
「公爵はギルドに報告しただろうからタマモがタマミに伝えなかったのかもね」
「あの子は・・・一番大事な事を伝え忘れてるじゃない・・・」
タマモの事だからわざとな気がする・・・。
「まぁ使徒って言っても別に特別、何をしろと言われている訳でもないけどね」
「そうか。しかしそれなら尚の事、同盟は必須だな。人族と違い亜人達の間では神への信仰は厚い」
「え?あの神様、基本は何もしてないよね?」
「創世して下さり、見守って下さっているのだ。十分だろう?」
まぁ本来、神様の認識はそれで普通な気がする。
「しかし、不老不死か・・・そして最強真竜のヒスイ様がいる。どうやっても勝ち目はないな。吾輩の判断は実に正しかった。そう思わんかね?アルラよ」
「いや、正しいけどあの態度はどうよ?もう少し威厳とかね・・・」
「私としては助かったけどね。堅苦しいのは苦手だからこれからもそんな感じで宜しくお願いしたいね。ところでアルラとナイウの関係ってなんなの?」
「妻の一人だな。と言っても子供が独立してからは城を出て行ってしまったが・・・」
えぇ・・・?
「昔の話さ。千年以上も生きてれば、ずっと一緒ってのも逆に違和感があるものよ」
「お子さんは元気なの?」
「
「そう言えば
「聖教国は海に面していて首都のツサーツァは海が近いから交流したいと思ってた。顔つなぎして貰っていい?海も越えないといけないし。あと船欲しい」
魔王相手にこの遠慮のなさ・・・。まぁ、いいけど。
「なんか困ってるらしいから手伝ってやってくれると助かる」
「どうしたの?」
「
「ナイウがなんとかしてあげないの?」
多分、帝国の中でナイウが一番強い。だから魔王なのだろう。
「それがなぁ・・・海だと部が悪くてな。今はアルラの封印魔道具でなんとか海竜の動きを制限しているんだが、そろそろ限界でこの人族の侵攻を収めたら次はあっちに行く予定なんだが・・・しんどそうなんだ」
『アオナなら多分、余裕だろうなぁ・・・。あと海竜の身体があれば船を引けるからちょっと欲しいかも』
僕はアオナに念話を送る。
『それいいね♪』
「じゃぁ、それをなんとかしたら船をくれる?」
「お安い御用だ」
酒の席で重要な事がサクサクと決まる。案外、外交なんて本来はこうあるべきなのかもしれない。それともう一つ・・・どうしても話さないといけない案件がある。
しかし・・・神様に悟られる訳にはいかない。どうしたものか・・・。
「ところで、アルラはなんであんな所にいたの?」
確かに。わざわざ人族領にいる理由については謎のままだった。
それにはとても・・・深い理由があった。
それは王国建国の物語・・・一人の英雄とエルフの女性の物語・・・。
*****
黒竜を始めとする魔物の大氾濫によって文明は滅びた。
亜人の国はセーフティーエリアに人を集めて魔物の収束を待った。
その集団こそが後の帝国である。
人族の国は、もう一つのセーフティーエリアを巡って争い、挙句そのセーフティーエリアを破壊し滅んだ。セーフティーエリア自体は人が数千人集まれば自然発生する。
そういった魔道具も存在していた。
しかし人族は争い各地で、そのセーフティエリアを奪い合い、一部では食糧難で、
一部では破滅を望む狂った人々により、そして一部では間違ったこの氾濫の収束方法の為に滅んだ。
魔物の氾濫は、確かに人族の急速な増加によって起こる。しかし、魔物を倒し循環させ人々が手を取り合い生存に向けて進めば文明が崩壊する程まで破壊し尽くしはしなかっただろう・・・。
この時、人族の人口は半減するところまで衰退した。
アルラはこの時は帝国にいた。そしてナイウと共に帝国を創った。
その後、人族も生き残りが集まり村ができ、街が出来た。その中心になったのはギルド。
獣人が中心となって人族領の復興に努めた。
暫くして、そんな中で一人の英雄が生まれた。男の名はアレイ。
彼は人族に中でも異常なまでの戦闘能力を持っていた。
その力を持ってして、彼は人族の衰退によって弱った黒竜を討ち取る事に成功した。
そして、その男を支えたのが・・・アルラだった。
アルラは帝国で百年の時を過ごし、子をなし子は独立し、役割を終え旅をしていた。
その時、アルラはアレイと出会ったのだ。
英雄アレイとそれを支えるアルラによって国の原型が出来た。
アルラは時空魔法属性であり、時間魔法の適正を持っていた。
更に、空間魔法も使い魔道具生成の知識も多様に持ち合わせていた。
しかし、汎用の魔道具と違いアーティファクトと言える程の魔道具の生成には多大なリスクがあった。生涯で創れるアーティファクトは一つ。
男はアルラの力を借りて一つの『
それは【黒竜の血の杖】。
人類の最高傑作とも言える魔道具。
様々なもの、マナや魔力、情報、特定の魂までもを蓄積する記憶装置。
「俺は長く生きる事はできない」
彼は英雄病だった。人より強い力を持ち、その代償として通常よりも短い寿命となり、
更にその子供は子をなす事が出来なくなると言う呪いの様な病気。
「この力には感謝している。おかげで俺は人族の再建を担う事が出来た」
それは神がこの世界にかけた負荷だった。進化の先として力を強く求めた結果、現れるであろう強い力を持った個体は世界のバランスを崩す。
一方向に強い個体のみを厳選した進化の先・・・それは終焉だった。
だから神はそこに制限をかけた。
しかし、それでも突発的にそこに到達してしまう特異点が現れた。それが英雄病。
この世界は、とても狭い囲いの中で魂を循環させている。
強い想いは魂と同化して根源で混ざり合い世界を巡る。
「俺は悪意を集めて・・・世界を浄化し次世代に託すよ」
子を成せない未来のない自分の血筋を諦め、彼は別のものに王の座を明け渡す。
その時、同時に沢山の悪意を集めて自らを犠牲にしてこの世を去った。
多くの人を不幸にする悪徳貴族。流通を滞らせ牛耳り暴利を得る商人。
奴隷を集め悪事を行う奴隷商人。邪教を蔓延らせて搾取し拷問する集団。
奪う事を生き甲斐とする盗賊団。
様々な悪事をアレイはまとめて抱えて彼の仲間だった男に・・・自ら諸共、葬らせた。
アレイを討った男、彼こそが初代国王コンクだった。
黒竜の血の杖はコンクの手に渡った。杖は悪意を力に変えて、国を支えた。
魔物を退け、多くのマナを生み出し、国を豊かにした。
しかし世代を重ねる毎に、その杖に込められた本当の想いは薄れていった。
国中から悪意が溢れた。
王家は杖から悪意が漏れ出したのだと、黒竜の血の杖を城の地下に封印した。
そんな事は実は全くなかったにも関わらず・・・。
その理由はとても簡単な事だった。
杖によって人々は容易に悪意を排除し、それに依存してしまったのだ。
抵抗力をなくした人々は、より簡単に悪意を生み出す様になってしまった。
結果、杖の許容量を超えた。
皮肉なものだ。悪意を抑えたくて必死で悪意を集め、その命を賭して多くの悪意を浄化し、次世代の為にと残した黒竜の血の杖。
それは、結果的に悪意に対抗する力を衰退させてしまった。
人々は容易に流され、沢山の人が不幸になり、その怒りを・・・帝国へ向け始めた。
王家が率先してそれを行ったのだ。
アルラは全てを見守った。
そして、その後の行く末も見守り続けた。
千年以上の時を生き、なお生き続ける妖精種に近い力を残したハイエルフであるアルラ。
「人の一生は・・・本当に短いな・・・」
それは永い人生の中の一時に過ぎなかったのだろうか・・・?
*****
「アレイのやった事は一体なんだったんだろうな・・・」
アルラは星空を見上げて、悲しむでもなく、かと言って笑うでもない、なんとも言えない表情を浮かべていた。
「少なくても私は感謝しているよ?彼がいなければ私はアルラに出会えなかった」
確かにそうだ。彼女とアオナが出会ったその意味はとても大きい。
「それに、アルラはその人の事を好きだったんじゃない?じゃなきゃ、彼と守った国を長い年月をかけて見守るなんてしなかっただろうし」
アオナはそれこそまだ二十年しか生きていない、アルラから見たら子供でしかない。
そんな彼女が永い時を生きた彼女も分からない彼女の気持ちを言い当てる。
「どうだろうなぁ・・・。彼とはそんな仲でもなかった様な気もするけど・・・」
千年生きていても自分の事はわからないものなのかも知れない。
「私から見てアルラが後悔している様には見えなかったし、彼の行動はアルラに何かを残したんだと私は思うよ」
だからこそ生きていけるのかもしれない。
「それだけであいつは満足だったんだろうか・・・?」
そして他人の事もわからないものなんだな・・・。
もしかすると、千年生きてきたからこそ、なのかもしれない。
「彼はきっと、アルラの事を愛していたんだと思うよ。そして、だとしたら愛する人の心に何かを残せた事は・・・何よりも幸せな事だったんじゃないかな?」
「そうか・・・そうかもしれないな」
彼女は少しスッキリとした表情を浮かべていた。
「私は彼を・・・愛していたんだな・・・」
彼女の長年に渡る疑問が一つ・・・解消した。
・・・
一呼吸置いて、その話を複雑な心境で聞いていた男が口を開いた。
「旦那の前でする話じゃなくね?」
ナイウはなんとも言えない表情を浮かべていた・・・。
「なんか・・・ゴメン」
アオナは謝罪と共に少し複雑な表情を浮かべていた。
「まぁ、何百年も生きていれば一生同じ人と添い遂げるなんて事はまずありえない。亜人では一夫多妻、一妻多夫も普通だ。独占欲がない訳ではないがそもそもに人族とは時間の流れに対する感覚も価値観も違うのかもしれないな。だから別にどうこう言うつもりはないが・・・そんな表情は見た事がなかったから、少し悔しかっただけだ」
ナイウはそんな事を言いながら笑っていた。
アオナの母親は旦那を裏切り子を残し亡くなった。
彼女の浮気と・・・アルラのそれは・・・別物なのだろうか・・・?
だからって許せるものでもない。許せる訳ではない。
しかし、全てを知る訳ではないのだと・・・
彼女はそれだけを残して、この件を保留した。
永い人生の中へ先延ばしにした。
それもまた生きていく上で必要な事なのかもしれない。
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