第44話 魔王降臨で祭りだZE!唐揚げに柑橘系のお酒は最強タッグ♪

 無事、砦を越えて帝国領に入った僕達はそのまま予定通り、日が沈む前に帝国の村に着いた。

 その村には多くの帝国軍が配置されていた。


「アルラが話を通してるって言ってたから大丈夫だろうけど、戦闘になったら集団を守りきれないね・・・」

「私とアルラとタマミで先に話を通しに行きましょうか」

「なんで私まで・・・早速こき使われてない!?」


 タマミはまだご立腹だ。


「ギルドに話を通すのに丁度いいでしょ?アルラ中心で話して貰うから安心して」


 一応、理由はあったんだね。


・・・


 村はそれほど大きくはなかった。最初に訪れた時のツサーツァの村と同じくらいの規模だろうか。アオナは早速、要塞を村の横の平原に取り出した。

 要塞を取り出すってどんな言葉なんだか・・・。でも出来てしまうのだから仕方ない。

 そして集団は、皆それぞれに要塞内で自由にして貰う。

 移動の為、必要最低限の荷物しか持ち歩かず残りは要塞に残していたので、多くの人は荷物を整理したりしている様だ。それに、それなりに疲れていたのだろう。グッタリとしている人もいる。

 夕食の準備までのつなぎとして、摘める軽食を出して休憩してもらう事にした。

 炊き出しみたいになってるけど、夕食は別であるからね?


「さて、行きましょうか」


 村は簡易な柵で囲われている程度。要塞の方が余程、村らしかった。

 少数で村へと向かう。アオナ、アルラ、タマミに加えてレイルとリーダー数人もついてきた。もちろん、僕とヒスイもついて行く。並列思考で動かせる黒竜を念の為に要塞に残した。


 門番がいるので声をかける。


「初めまして、王国から聖教国への移民集団です。私は代表のアオナと申します」


 よかった。まともに話しかけてる。


「話は聞いてますYO!あの要塞はなんだY O♪あんたすげぇな!敵意はないんだろ?

 食糧届いてるZE!今日は祭りだヒャッハー♪」


 向こうがまともじゃなかった・・・。


「亜人ってもしかしてみんなあんな感じ・・・?」


 アオナが不安そうにアルラに聞く。


「そんな訳ないでしょ。あいかわずディジコはやかましいね」

「お?アルラの姉御じゃないかYO♪元気そうだNA!」


 竜人のディジコ。彼は竜の要素を多く残していた。公国で会ったガインはもっと人族に近かったので個人差がある様だ。


「みんな疲れてたから先に、場所だけ展開させて貰ったけど脅かしたなら御免なさい」

「いや、気にしなくても姉御から魔王様に話は通ってたしみんな知ってたからNA♪警戒はしてないZE!」


 気さくな人の様だ。


「代表と話させて貰える?」

「あぁ、呼んでくる・・・よりはよければ中に案内するZE♪立ち話もなんだろ?」


 滲み出る良い人感。


「ところでそちらの竜が真竜かい?凄まじいNA。正直言って敵対はあり得ないZE」


 少し真面目な顔をするディジコ。竜同士で伝わるものがあるらしい。

 その後は、和気藹々と話しながら村の中を進む。


『一応、多重干渉遮断マルチプリズンを展開しておいてね』

『大丈夫だろうけど一応、そうね』


 村はかなり人が多い様に見えた。

 人族の侵攻を止めるにあたって人員を集めていた様だ。

 それでも人数は全体で五百人ほど、戦闘要員は三百人程だろうか。これでも二千人規模の王国軍を退けられると言うのだから精鋭だ。数十人は公爵クラスの戦闘力と思って良いだろう。あのレベルが数十人かぁ・・・人族はそりゃ勝てんね・・・。

 魔力感知のおかげで魔法的戦力を把握しやすくなったので、とって良かったのかもしれない。


 その中でも一際、強い魔力を持つ人がいた。

 どうやら僕達はその人の元に向かっている様だ。

 村の中央、一番大きな家に案内されて中に入ると一人の男が立っていた。

 そしてその男は言った。


「よく来たな、勇者よ!もし吾輩の味方になれば、世界の半分を貴様にやろう!!」


・・・


「魔王!!?こんなところでアンタ何やってんのよ!!」


 アルラが言った。え・・・魔王?竜王じゃなくて??

 ちょっと、意味がもうわけわからございません。

 何を言っているのか僕もわからなくなってきた。


「面白そうだったから来てやったぞ!!はっはっは〜♪」


 ラスボスが王国に一番近いところにきちゃダメでしょ・・・。


「こういう奴だった・・・。道理ですんなりとこの村を指定したと思ったら・・・」

「えっと帝国の皇帝で魔王な方です?」

「どうも〜♪皇帝で魔王なナイウです」


 あ、アオナ凄い。普通に冷静そう。

 魔王は『ナイウ』という名前らしい。

 見た目は人族寄りの竜人だが妖精の血も混ざっているとか・・・。


「帝国のトップがこんな所にいて良い訳がないと思うんだけど・・・」

「あぁ・・・本来、こんな所にいて良い訳がないんだが・・・」

「いや吾輩、内政とか無理だし。むしろ最前線の方が適任じゃね?」

「この脳筋が!!アンタが殺されたら困るでしょうが!」

「いや、吾輩が人族に負けるとかそれこそあり得んだろ?ん・・・ん〜・・・あ」


 アオナと僕達を見て魔王は言い淀む。


「そちらのエルダーラット様だけならまだしも・・・そっちの白いお方は無理だな。あとその魔法なに?ダメージ通るきがしないんだが・・・勝てる気しないなぁ・・・」


 嘘でしょ・・・全部見抜いてる?


「多重干渉遮断が見えるの?」

「吾輩、ちょっと特殊でな。魔力というかマナの質がわかるんだが・・・うん、こりゃ無理だな。あと、そちらの真竜を超えると思われる白い竜様は帝国軍全員で挑んでも無理だな。うん。服従しよう、そうしよう」


 かる〜い。


「皇帝がそんなんじゃダメでしょ!?」


 アルラは慌ててツッコむ。


「いや、無理だって。お前らはわからんだろうけど・・・。あのドラゴン様、鬼強だから。無理だから。あ、お名前聞いていいです?」

「ヒスイだワン♪」

「ワン?ヒスイ様は個性的でいらっしゃる様ですね。それと主人のアオナ様でしたっけ?

 その魔法は質である程度予測出来ますが、それ突破出来るなら王国なんて一瞬で消滅出来ますよね?ヒスイ様ですら突破出来ないんじゃないです?」

「そうだワン♪アオナは凄いんだワン!」


 凄いのか凄くないのかよく分からない魔王だなぁ・・・。


「いや〜事前にアルラが情報くれてて本当によかった。間違って敵対なんてしてたら国滅んでたよ?アルラ、グッジョブ!!」

「アンタ相変わらず軽いな!!」


 アルラは頭を抱えていた。


・・・


 そして、簡易な同盟の話がなされた。

 結ばれたのは、互いの不可侵。そして船を利用した貿易。

 船自体は既に存在する。今まではあくまで漁の為だったが貿易用にも使えるらしい。

 細かい事は追々決めるとして、とりあえずこの二つを持ってして同盟とされた。


「さて!小難しい話は終わりにして・・・祭りにしようぜ!」


 この魔王、適当すぎる・・・。

 こうして帝国の村と人族移民集団は祭りへと突入したのだった。

 祭りと言っても日本の様なものではない。神様が明確に認識されていて、干渉しないと決めてる世界だ。宗教的な慣習は薄い。では祭りとは何か?いつもより豪華な食事をみんなで楽しく食べる。そして酒が飲める。以上である。


 そして、裕福ではないこの世界の住人。いつもより豪華と言っても知れている。


「俺の狩ったケツァリゲーターの方が美味いぜ!」


 この魔物は俺が狩ったんだと自慢する男。鶏とワニの中間の様な魔物。

 とても上質な鶏肉である。よくコカトリスと間違えられる。


「いや、俺の狩ったタートルボアの方が絶対に美味いに決まっている!」


 亀と猪の中間の様な見た目。とても上質な豚肉である。

 そして、なぜか料理対決に。

 ジャッジをどう言う訳か気付けばアオナ、アルラ、魔王ナイウが行う事に。

 なぜか一番お祭りっぽい雰囲気になっている。周囲の人達も各々で両方の料理を食べて楽しんでいた。お酒も振る舞われてみんな陽気に騒いでいる。

 あれ・・・明日、王国から大規模な侵攻があるんじゃなかったっけ?

 こんな事していていいんだろうか・・・いい訳ないね。

 思わず反語表現が出てしまった。帝国の人達はどうやら王国の侵攻を微塵も脅威と思っていない様だ。僕達の移民集団もそれに釣られて盛り上がる。


「どう?美味しい?」

「不味くはないけどね・・・。食の変態国家、日本からやってきた私が納得出来る料理をこの世界の人が作れる訳がないよ」


 そりゃそうだ。あの国の食文化はイカれている。ありとあらゆる組み合わせを生み出し、

和洋折衷、中華にインドにタイにイタリアン。節操なしの魔改造だ。

 

「素材は美味しいのに・・・勿体ないなぁ。仕方ない、私も腕を振るうよ」


 そう言うとアオナは立ち上がり、調理台に立った。

 手際良く準備を進めて行く。


「豚肉に鶏肉かぁ・・・。あれが食べたかったんだよねぇ〜」


 そう呟き、まず用意したのは廃棄予定だった大量の背脂。

 それを鍋に放り込んで少量の水を足して加熱して行く。出てくるアクはこまめに取り、

漉して不純物を取り除く。そうする事で上質のラードが用意できた。


 まずは鶏肉の下味をつける。コイクチの実という明らかに醤油味の謎の実を使う。

 そしてニンニクとミョウガの中間の様なクセの強い味のミョンガクを刻んで入れる。

 甘みを増す為にアルラの森で採れた果物を混ぜる。揉み込んでしっかりした味がついたら小麦粉をまぶしてラードにドボン!唐揚げである。


「本当は片栗粉も欲しいし、マヨネーズがあればいいんだけど・・・まぁ、塩焼きよりはいいよね」


 次に豚肉。叩いて少し平たくする。塩胡椒を振る。小麦粉をまぶして溶き卵に潜らせてパン粉をまぶす。パン粉は元々硬い黒パンをおろし金で粉々にした。そして鶏肉と同じくラードへドボン。ソースは先ほど唐揚げの下味で使ったものと同じ物を煮詰めてソースにする。


「トンカツはシンプルにあまり工夫はせずベーシックにしたけど、こっちではそもそもに揚げ物はないみたいだし塩焼きと比べたら劇的に美味しい事は間違いないよね?」


 背脂を捨てるくらいだ。ラードにして揚げるなんて発想が出る訳もなかった。

 先程の料理と同様に、揚げたての唐揚げとトンカツが次々と供給される。

 

「何これ美味しすぎなんですけど?神なんですけど?女神が創ったらしいんですけど!!」

「え?何これウマ!?え?サクッとジューシー。これは本当に肉なのか!?」

「食の女神様が降臨なされた・・・」

「あんな短時間で茹でただけでちゃんと火が通って・・・いる・・・だと!?」

「見てくれ、この断面から溢れ出る肉汁!今までの肉がまるでミイラじゃないか!」


 食に革命が起きていた・・・。

 どっちが美味しいかだって?もうそれどころではなくどっちも美味しいと皆が涙していた。そして崇められるアオナ・・・。


「さすが、変態国家・・・日本のレシピね・・・」


 複雑な表情をしていた。この上ない褒め言葉だと僕は思うけどね。


 美味しい食事と祭りの喧騒。一度冷静になった移民の人達は改めて帝国の人達を同じ人として認識する。そして同じ食事をして同じ様に美味しいと言う。

 自然と同じ様に笑顔になる。彼らは気付く、同じなのだと・・・。

 わだかまりは未だに残っている。それでもみんながアオナの言葉をしっかりと覚えていた。


『亜人は敵じゃないよ』

 

 その意味が正しく伝わる。種族の違いは本質的に障害にはなり得ない。

 互いを理解する事は難しく、違いは存在していて、すれ違う。

 しかし、それは争う理由にはならない。ならない方法を僕達は皆、知っているのだ。

 互いに発信し、理由を知る事で誤解を溶かす。間違いに気付く。


 きっと僕達は・・・手を取り合える。

 

・・・


 やっとひと段落して、自分が食べる分の唐揚げとトンカツを確保したアオナはお酒を片手にアルラとタマミ、僕達と魔王ナイウでテーブルを囲っていた。


「やっとゆっくりお酒が飲める」


 そう言うとアオナは唐揚げを口に入れて、グイッとお酒を流し込んだ。


「うん、唐揚げ懐かしいわぁ。それにこの世界のお酒が意外と美味しいね。あれ?でもこの世界の、微生物も発酵も化学反応も存在しないのにどうやってアルコールを作ってるんだろう?」

「魔法だよ。糖分をアルコールに変える魔法があり、魔道具がある」

「創った人は偉大だね。アルコールはインスタント幸福だ。依存はダメだけど」

「二日酔いも依存症もあるから適度に楽しくやるのが幸せの秘訣だね♪」


 他種族の重鎮、一人は魔王で一人は転移者。エルフ、獣人、竜人、人族、竜が食卓を囲み酒を飲み交わす。この状況がどれほど特殊な事なのか・・・当の本人であるアオナは気づいていない様だ。それほど、自然に偏見を持たない彼女は・・・なるべくして聖教国のトップになったのかも知れない。それはチートとは全く違う、上に立つ素養。


「しかし、お酒が飲める年だったんだな。十五歳以上に見えなかった」


 こっちの世界ではお酒は十五歳からが常識らしい。


「ん?まぁ、二十歳だけど日本人は若く見えるからね」


 アオナは背が少し低くて、胸が小さく童顔だ。総じて日本人基準でも二十歳に見えなかった。


「はぁ!?二十歳!!?エルフだったの!?」


 タマミが驚いて意味不明な事を言っていた。


「いや、人族だよ。あ・・・でも、歳取らないんだった」


 そういえばそうだったね・・・。つまりアオナはずっとこの世界では見た目、十五歳以下のままである。


「え?歳取らないってどう言う事?」

「私は神様と同郷で転移する時に不老不死にして貰ったんだよ」


 あ・・・それ言っちゃうんだ・・・。酔った勢いとかじゃないよね?


・・・


 凍り付く同席者達。そして・・・


「「「はぁあああああああ!??」」」


 そりゃ、そうなるよね・・・。


「あ、こっちの柑橘系のお酒好きかも。唐揚げとあうわぁ〜♪」


 アオナ・・・自由過ぎ・・・。

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