第43話 いざ帝国領へ。そして新たな仲間?
帝国への移動は順調に進んだ。
小さな子供も多い三千人もの大移動。
子供のいる人を優先に馬車に乗せる。
自然とコミュニティが出来上がり、互いを支え合っていた。
リーダーになりそうな人物の選出をアルラと僕達で行い十組に分けた。
アルラの戸籍管理のおかげだ。本当に出来る人である。
十人のリーダーに各三百人の管理を任せている。
やり方は各々だけど、多くはさらにサブリーダーやコミュニティのまとめ役を置いて上手くやっている様だ。僕達はその十人のリーダーに主に様子を聞く。
リーダー十人には例の腕輪を持たせて通信できる様にした。
加えてヒスイに乗って上空から様子を見たりとアオナは色々と忙しそうだ。
「王国軍が数十人ついてきてるね」
「明日の侵攻の下見も兼ねて僕達を監視って感じかな」
「ちょっかい出してくる様子はないね」
「あの人数なら僕達がいなくても撃退出来るからね」
魔物は先陣を切って僕達が刈り取る。
元々は冒険者の者も多く、徴兵を受けていただけあって戦える者は多い。
側面は任せて問題なさそうだ。危険な魔物は進路にはあまりいなかった。
全部回収して晩御飯になる予定。
朝、出発して夕方には目的地の帝国領の村に着く予定だった。
一時間毎に休憩を入れて、仮設のトイレや給水所を設置した。
その間に遅れている部隊は追いつき隊列を整える。
病気がなく、基本は肉体労働に従事している人ばかり。思ったほどには体調を崩す者はいなかったが、精神状態は宜しくない人も少なくない。
出来るだけ負担の少ないに越した事はなかった。
ペースは普通に歩く程度のペース。馬車は先行して一時間置きの休憩ポイントで待機を繰り返していた。
「順調そうだね♪」
「喧嘩や暴動が起きる事も想定したけど問題なさそうだね」
昨日のデモンストレーションが効いたのかもしれない。
それに食事をしっかりと提供したのも大きかった。豊かではない暮らし。
アオナ的には質素なつもりだった様だけど、彼らにとってはご馳走だった。
何せ魔物の肉が食べ放題。焼くのが間に合わないほどに大盛況だった。
調味料もアオナは聖教国と公国で山ほど仕入れていた。海に面した塩田のある場所にとっては塩は高価ではないが内陸の王国首都では安くはなかった。
それを使い放題で肉食べ放題。アオナの株価は急上昇していた。
移住先の暮らしへの希望を見せたのだ。
それでも、帝国へ行く事に難色を示した人も当然いた。しかし・・・
「なぜ?」
アオナはシンプルにその人に問いかけた。
「帝国は敵だ。そう教えられてきた・・・」
「あなたは何かされたの?」
「帝国がいるせいで暮らしは豊かにならない。帝国に殺された軍人も沢山いる。その中には父も・・・」
「そう・・・でも帝国は一度たりとも王国に攻め込んではいないよ。ずっと見ていたアルラが言うんだから間違いない。アルラはエルフだから文字通りこの国の歴史を見てきた」
あ、バラしちゃうんだ・・・。
「え!?あの人が・・・!?」
アルラは親身に話を聞き沢山の人に関わり、傷を治し、要望を聞き、以後の生活に反映できる様に努力すると答えていた。移住後も家族と過ごせるのか?仕事はあるのか?残された王国の人々の事。様々な不安にアオナとアルラは応えた。
この集団の中でアオナとアルラを知らない人はもういなかった。
「エルフは・・・この人は別だ!」
男は食い下がる。一生をかけて染みついた洗脳。
そう簡単にとけない事はアオナも知っていた。
「王国ギルドの受付嬢のタマミさんは獣人だよ?」
・・・それ、バラしちゃダメでしょ?
「え・・・!?」
王国の冒険者でタマミさんの事を知らない人はいない。彼女は冒険者に寄り添い様々な貢献をしていた。彼女に命を救われた人も少なくない。
「貴方には彼女達が、敵に見える?今までは仕方なかったかもしれない。知る機会もなかったし、それが当たり前として教え込まれて来たんだから。でも今は違う。あなたは真実を知った。もちろん、だからって直ぐに考え方が変わるとは思わないし仕方がない」
アオナは丁寧に話した。自分が見て聞いた情報を。そこにアルラも真実を加えてくれる。
誤解は少しずつ溶けていく。解は分からずとも、間違いを知る事は出来た。
「亜人は敵ではない。これだけは理解して。亜人と関わる中で不満があれば言うといい。この腕輪を上げる。これがあれば私にメッセージを送れるから、そしたら応えてあげるよ。答えをあげられるかは分からないけど、応えてあげる」
彼は十人のリーダーの中の一人だ。レイルもそう。他の人も自然と話の出来る落ち着いた、思慮深い人がリーダーに選ばれた。アオナとアルラの人を見る目は・・・確かだ。
この話は多くの人が聞いていて広まった。
おかげで、帝国領に向かうと言った時に脱落した者はほとんどいなかった。
いなくなった数人は、おそらく王国の間者だろう。
魔道具も突破した本心で王国に疑念を抱いている王国の手の者。
彼らとて流石に帝国までついて行くわけには行かない。行けば逃げ場がないのだ。
内部崩壊を狙い忍び込んだのだろう。公国を行くなら逃げ場もあるが帝国領を抜けての海路なんて予想だにもしていなかった。これでは情報を王国に持ち帰れるかも怪しい。というか無理だ。
不穏分子は排除できたと言って良いだろう。
・・・
「しかし、普通に街道は整備されてるんだね」
確かに戦争中なのに帝国の村と王国をつなぐ街道が整備されているのは違和感がある。
国境付近には砦もあった。僕は飛び回って各村から集団の家族の回収もしていたけど各村との道もある程度整備されている。
「主に使用するのはギルドだけどね、整備したのもギルドだし。おかげで経済が回っている。王国が出来る事はせいぜい関所を作るくらいだ。あの砦も名目は関所だし♪」
アルラはさすがの知識で教えてくれた。
おかげで問題なく進めているのだからギルドさまさまだ。
そして、順調に砦に辿り着いた。
「どうも〜。通して貰っていいですか?ダメなら吹き飛ばしますけど?」
無茶を仰る。でもアオナには出来ちゃうから困る。
三千人の集団が国境を越えようとしているのだけど、正規の手続きをしていたら日が暮れる所の騒ぎではない。当然、砦にこの集団の事は伝わっている。
足止めを言い渡されているに違いなかった。迂回すれば良いのになんでわざわざ・・・。
何か考えがあるのだろう。あるよね?あって欲しい・・・。
「これより出国手続きを一人ずつ行っていく」
当然の様に門番は言った。根性あるなぁ・・・。
「時間がないので無理です♪吹き飛ばしますよ?」
言い方が暴君を通り過ぎてアホの子だ。
こちらは三千人。相手は百人にも満たない。戦う気があるとは思えないけど・・・
「ダメに決まっているだろうが!正規の手続きだ。不正を働けばギルドも黙っていないぞ?」
ギルドの名前を出されるとこちらとしても辛い。よく分かっている様だ。
「戸籍の変更はもう行っているから私達は王国民ではないよ?なら王国にいる方がおかしい。手続きはもう終わっているのだから必要ないでしょ」
あ、その為に昨日、済ませてたんだね・・・。
「それが正しく行われているか確認しなければいけない・・・。王国民が混ざっているかもしれない!」
食い下がる門番。凄い!偉い!!なぜか僕は門番さんを応援していた。
どうせ、アオナが丸め込むんだろうと分かっていたから・・・。
「はい、これがリスト。戸籍登録に使った紙はみんなが持ってるから見せたら通っていいよね?」
正規の手続きですね・・・。昨日のうちに紙を配って砦で見せる様に通達されていた。
「・・・手続きを始める」
「わざとゆっくりやったら暴れるからね?」
「勘弁して下さい・・・」
ヒスイを門番さんに向けて脅迫するアオナ。
門番さん可哀想・・・。
こうして無事、殆どの人が砦を予定通り通過した。
迂回するよりタイムロスは少なかった気がする。アオナの計算通りみたいだね。
一応、僕達は最後まで残っていた。
そして、ここでお別れを告げる人達が・・・王国軍の人達だ。
当然、帝国領までついては来れない。
「よかったらあなた達も一緒に来る?」
アオナは隊長らしき人に声をかけた。
「いえ・・・我々は誇り高き王国軍。魅力的なお誘いですがお断りせざるを得ませんね」
とても紳士的な対応。まともな人の様だ。どうせなら王国なんて裏切ってついてくればいいのに・・・。
「なぜ王国に尽くすの?」
「我々は王国に優遇されているのですよ。それは有事の際には命を賭けて国民を守る事に対する対価だ。それを無視して寝返れば、それ即ち義にあらず。責任があるのですよ」
隊長はやれやれと言った感じだった。本当に出来た人の様だ。
「後ろの皆さんもそうなの?」
「えぇ。先日の騒動、お見事でしたな。王国への疑念は私とてあります。しかし、それでも捨てれぬ騎士としての信念があります。国と共に心中する覚悟くらいは持ち合わせていなければ王国騎士団は務まりません」
「そう・・・、立派ね。でも命は大切にして欲しいかな」
「お心遣い痛み入ります」
「このまま帰国して問題なさそう?」
「元より出来る事などありません故・・・。砦までの魔物の掃除をして頂いたのを見守ったと報告するのは心苦しいですがな」
そう言うと隊長は笑っていた。
「帝国との決戦に参加するの?」
「このまま砦に残り合流し、さきがけを務めさせて頂く事になるでしょうな」
「そう・・・残してきた家族はいるの?」
「女神様はお噂通り、優しい方の様だ・・・。それを聞いてもお辛くなるだけでは?」
「そうね・・・。でも知りたいの」
「妻が三人、子供が八人おります」
わぁ〜お。子沢山♪
「生きて帰ってみやげ話を聞かせてあげてね」
「それは難しい話ですな・・・。約束出来かねます」
彼はきっと忠義を貫き死ぬつもりなのだろう・・・。
それを否定する言葉を僕は持ち合わせていなかった。
僕は、アオナを守る為なら・・・自分を犠牲に出来る。
彼の決意は・・・それに似ているのかもしれない・・・。
「じゃぁね」
そう言ってアオナは砦に向かおうとした。
その時だった。
隊長の横を黒い影が通り過ぎた。
暗殺!?ヤバイ!動きが早過ぎる。干渉遮断は常時展開させている。
普通の攻撃はアオナには一切通用しないはず。大丈夫なはず!
しかし、早過ぎて目で追えないほどの動き。まずい!ラットの身体で守り切れるか!?
応戦を・・・そう思った時・・・
「アあああおおおおおナーーーー!!貴方ね!?私が獣人だってバラしたのはあああ!!」
へ?
胸ぐらを掴もうと伸ばした手がアオナの手前で
「遅かったね。来ないんじゃないかと心配したよ♪」
アオナはニヤニヤとその人物を見つめる。
それは僕達がよく知る人物だった。
そう、そこにいたのは・・・ギルドの受付嬢、タマミだった。
「貴方のせいで王国軍がギルドに来て、捕まりそうになって逃げてきたのよ!?」
「誤解なのにね。誘拐に手引きをしたと思われた?」
「そうなるのが目に見えてたから逃げてきたのよ!どうしてくれるのよ!!」
「面倒見るから一緒においでよ♪」
「貴方・・・わざとやったでしょ!絶対そうだわ!」
昨日のリーダーとのやり取り。その後いなくなった数人の王国の間者。
彼らはアオナがギルドの受付嬢タマミが獣人だと言ったのを聞いている。
当然、タマミは疑われて・・・こうなった。
酷過ぎる・・・。
「一緒に聖教国で頑張りましょう♪ギルドの受付嬢をさせとくなんて勿体無いし、タマモもいるから仲良くしましょうよ」
あ、この人、絶対わざとやって無理やり来る様に仕向けたな・・・。
「もう、王国で暮らせないし・・・絶対養って貰うんだからね!!」
「うん。優遇するから宜しくね♪」
我が主人ながら・・・酷い手口だと思う・・・。
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