第42話 斜め上の解決方法
アルラを森から連れ出して王国首都に戻ってからは時間との勝負だった。
まず、最初に行ったのはギルドとの連携。
アルラはレイルの村を襲った獣人奴隷の所有者を割り出し既にギルドへ報告していた。
その証拠も合わせて王国中に拡散して貰う。そして・・・
「レイル、貴方には革命軍のリーダーと王国から聖教国へ移動する指揮を取って貰いたいの」
「おい・・・昨日の今日で無茶苦茶を言うなよ・・・」
「私からもお願いする。全力でサポートさせて貰うよ♪」
「森の魔法使い様!?」
「名前もまだ名乗ってなかったね、アルラだ。宜しく頼むよ」
レイルとアルラによる煽動が始まった。アルラはエルフである事を隠している。
耳さえ隠してしまえば普通の人族と変わらないので問題ないだろう。
音声拡散の魔道具を使い、あっという間に情報が拡散される。
「我々は王国に騙されていたのだ!このまま帝国への侵攻という死地に黙って進んでいいのか!?愛する者を守る為、涙を呑んで参加する者よ!聖教国は我々を受け入れてくれる!
家族共々に新天地で新しい、真の幸福を目指すべきだ!」
レイルのノリノリの演説が拡散される。街の一画、貧民街寄りにある広場にステージを作り人を集めた。信憑性を持たせる為にアオナもステージに立たされる。
そこで僕とヒスイは真の姿になり空を飛ぶ。
「真竜である二人は私の従者。私には武力は一切の意味を為さない。つまり、王国が武力を持って貴方達を押さえつけると言うなら、私はそれ以上の力を持って王国を押さえつけます。自由を求めて、生きる意志を持って私についてくる人には手を貸します」
武力を封印した上での国民の選択を促す。
「真竜!?まさか・・・しかしドラゴンなのは間違いないし・・・」
ザワザワと民衆が湧く。
『何かデモンストレーションした方が良さそうだね。ラッド、ヒスイ、何か真竜っぽい事を危険のない範囲で出来る?』
『ザックリとしたリクエストだなぁ・・・『
そんなやり取りをしていると衛兵が集まってきた。
そりゃ、取り締まりに来るよね。
『丁度いいからアレを無効化して♪』
『人使いが荒いなぁ・・・僕が人かどうかは怪しいけど・・・』
殺すわけにもいかないので急降下し衛兵達の前に立ち憚る。
「な・・・竜・・・だと!?」
「お仕事ご苦労様♪でも邪魔しないで欲しいから暫く大人しくしててね」
『
衛兵十人ほどをサクッと無力化して拘束し、一箇所に集める。
『
上空で待機していたヒスイが街の中央にある城の天辺を掠める様にしてブレスを放った。
宣戦布告かな・・・?まぁ、いっか。
「本物だ・・・。俺はこの国を出るぞ!!広場に集まっていればいいのか!?」
群衆の中から叫び声が上がった。
『この広場じゃ手狭だね。城壁破壊して道を作って街の外に人を集めよう』
やりたい放題だ。ヒスイは再度ブレスで城壁を破壊。
街の外の平野に人々がなだれ込む。
あっという間に人の集団が出来上がる。
『一日では無理だし物質の持ち出しも必要になりそうだね。とりあえずお昼ご飯の準備をしよう♪』
そういうと空間収納から大量の魔物を取り出した。
「さぁ、皆さんお昼の準備を始めましょう♪料理の得意な人は率先して魔物の解体と調理を進めてください」
アルラが魔道具のコンロをいくつも並べていく。
「俺、家に帰って荷物を取ってくる!!」
「家族を連れてこないと」
「テントがあったはず、あと大きなカバンが・・・」
千人くらいは集まっていただろうか。それが一気に場の空気に飲み込まれた。
大混乱の中、しかしその多くは希望を見出した。
『最低限の物資は向こうについてからも保証するとして、荷物は出来るだけ持ち運べる量にしないとだよね?』
『裏技で空間収納を多重展開すると160m×160mしまえるよ?』
『うわぁ・・・もう村ごとしまっちゃえるね・・・』
結局、王都の横に要塞を作り始める事となってしまった。
王国から聖教国までは二週間はかかるだろう。恐らく移住する人数はまだ増える。
二千人規模の移動になるだろう。
王国首都の人口は三万人。王国全体で人口が六万人。公国は全体で四万人ほど。そしてフウェンとツサーツァが統合した聖教国はせいぜい大量の移民を受け入れたといっても五千人ほど。帝国は一万人ほどらしい。
・・・
「戦争を終わらせるって言ってたけど、終わらす気はないんだね」
「戦争は国家間で互いに自国の意志を相手国に強制する為に武力で争うこと。まず帝国には要求がないのだから『互いに』ではないからそもそもに、ただの侵略行為であって戦争ではないよ」
屁理屈な気もするけど、確かにその通りな気もした。帝国は応戦しているだけで何も要求すらしていなかった。
「さらに戦いたくない人は戦わないでいいと言う選択肢を作れば、戦いは個人の喧嘩になる。戦いたいから戦ってるなら自業自得。全力で帝国の味方をして蹴散らすよ」
普通ならその『戦わないでいい選択肢』を創る事が出来ない。
そうさせない為に国は様々な対策をとる、しかしアオナはそれを全て破壊する。
聖教国を創り、王国に対して絶対的な力を示し・・・。
帝国と聖教国の同盟が為されれば王国は終わるだろう。二面戦争、そもそもアオナ単騎で滅ぼせるのだから余計な事をする気すら失せると言うものだ。
それは戦争の終焉といっても過言ではなかった。
・・・
王国の外にできた要塞は、野営というよりはキャンプ地だった。
東京ドームほどの広さをしまえるのでその範囲で展開する。
賛同したものの中に、商人と貴族が混じっていてその建物を丸ごと持ってきた。
「建物を丸ごと運べるとは思わなかったよ・・・」
「普通は無理だよ?土地と切り離さないとだし、そもそもこんな巨大な空間収納はアオナしか無理。空間魔法が使える人自体がいるかどうかも怪しいし」
これも裏技なんだけど範囲指定での収納がポイント。地図と干渉遮断と多重空間収納の同時展開によって可能にした。
街に荷物を取りに行っていた人が、衛兵に捕まる場面が多く見られたが集団で動いていたお陰で逃げ切れたようだ。
演説からの電光石火。二日後には死地に行くのだから迷いは少なかった。
帝国が圧倒的優位にいる事、勝ち目のない戦いである事も情報として流した。
ギルドは中立の為、どちらに都合よくも動かないが、真実は真実として広めてくれる。
それは確実に信憑性を高めた。
加えて、王国は聖教国に経済制裁を加えない。というか加えられない。流通は中立のギルドが行っているこの世界では意味を為さないのだ。
逆に言えば暴君が君臨出来る。その結果が王国なのかもしれない。
食料はギルドから購入出来る。水は魔法で出せる。魔物の肉も移動中に補充できそうだ。
馬車は結構な台数を確保出来たけど、二千人を連れて歩くには当然足りない。より安全な移動の為にも王国側との話し合いを行い、追手を出される様な状態を避けたい。
しかし二千人の誘拐、王国が協力する訳はない。
帝国への侵攻軍の半分はこちらにいる。戦力は十分ある。
しかし、おかしな人間とはどこにでもいるものだ。
揉め事も絶えないだろう。そういった事態すべてに先手を打つ。
アオナはとんでもない事を思いついた。
「今日中には、移住希望者は集まりきるかなぁ?」
「ん〜多分まだ無理だし、今はどっちつかずの人もこちらに来たいと言い出しそう」
「キリがないと言えば、そうだけど・・・王国は侵攻を延期するかなぁ?」
「・・・半数が減っても・・・強行するんじゃないかな?国王はきっと勝てないとは思っていないみたいだし。たった千人で攻めてもどうにもならないのにね・・・」
「この地図なんだけどさ・・・
アオナの
でも三重掛けは出来ない。
「あ、出来た」
「出来るだろうけど意味ある?」
「世界地図が見れる様になったよ?」
「えぇ・・・?」
「でも世界地図なんて見てどうするの?」
「陸路だと徒歩で一ヶ月以上、馬車で二週間、ヒスイで丸一日、聖教国までかかるでしょ?」
「そうだね。移動は大変そう」
「でね、このまま帝国へみんなで行こうと思うの。それなら徒歩でも1日で帝国領に入れる」
「王国は帝国と戦争中なんですけど?」
「ん?私達は聖教国民だよ?」
今もアルラを中心に、全員の国籍異動の手続きを行っている。
例の王国寄りの人を弾く魔道具を使用する意味も兼ねて。
「そうだけど・・・」
「公国だって流石にこれだけの人数での王国の裏切りを見過ごせないだろうし、でも公国を通らないと陸路は無理じゃない?」
陸路は?
え・・・どゆこと?
「だから帝国を経由して海路で行きましょう♪地図の端っこはどうゆう原理か謎だけど反対側に繋がってるらしいし、それなら直線距離で言えば近いし」
「帝国に抵抗のある人は多いと思うけど・・・」
「丁度いいからふるいにかけましょう。聖教国では亜人も一緒に暮らすんだし、帝国とも同盟を結ぶつもりなんだからそこで脱落するならこない方がいい」
確かに理にかなっている・・・王国も追ってこれないし・・・。
「皇帝は受け入れてくれるかなぁ・・・?」
「アルラ、今の聞こえてた?どう思う?」
「こっちは死ぬほど忙しいって言うのに何を面白そうな話をしてるんだい?全く、アオナはとんでもない事を思いつくね♪魔王は大爆笑で待ってると言ってるよ」
「リアルタイムで繋がってるの!?」
「丁度こっちの状況を伝える為に話してたら聞こえてきたからついでに話を通しておいたよ。念話で話せるんだ。私と魔王は昔、色々あってね。まぁ、信用してくれていいよ」
軽く凄い重要な情報が詰まっていた気がする・・・。
「私から挨拶しとかないで大丈夫?」
「あぁ、どうせ数日後には会えるだろうから楽しみにしてるってさ♪」
アルラは念話をしながらこっちの会話を聞きつつも移住の手続きをしていた。
凄い・・・十人分働いている気がする。
「王国は何かしてくるかな?」
「嫌がらせくらいはしてくるかもだから今晩は酒はなしだね。帝国に入ったら祭りでもしようじゃないか♪」
アルラはなぜかとても楽しそうだ。
その真意は僕には分からない。でも彼女はきっと孤独の中、王国に絶望していた。
そこに一つの希望が差した。きっと彼女は王国に何かしらの思い入れがあるのだろう。
「夜逃げしてくるやつも多いだろうから人数は多分もう少し増えるよ。三千人くらいにまではなるんじゃないか?」
アルラの予想は的中した。王国軍も首都を封鎖して逃がさない様にはしたんだけどね。
しかし、アオナがそれを見て城壁を空間収納で切り取った。
そしてそのまま要塞の城壁にした。
「空間収納と干渉遮断のコンボ、超便利だわぁ」
もう無茶苦茶だ。僕はと言うと
一つの意識は黒竜に入れて王国首都の上空を飛び、予備のエルダーラットにもう一つに意識を入れてアオナに付いていた。ヒスイは一応、要塞の守護をしている。
でもどうやら、公爵からアオナの危険性は正しく伝わっているらしく攻撃はなかった。
公爵と公国騎士団は王国の最強戦力だ。それが歯が立たない相手。
半ば諦めているのかもしれない。せめてこれ以上、人員を奪われない為に封鎖しようとしても城壁は切り取られるし・・・上空から見張られて不可視のアオナによって揉め事は次々と刈り取られていく。基本は僕の
王国首都は一夜にして壊滅状態だ・・・。各村から侵攻の為に人が集まっていたのも災いした。王国を不審に思う人々が多く集まっていたのだ。
各村に家族を残してきた人達も多い。その人達への救済も必要だ。帝国側の村は合流しながら帝国へ向かう事として反対側の村をどうするか・・・となったけど、ここでも並列思考が役に立った。
一夜明けた要塞は、帝国へと進み始めた。
僕は王国の各地にある村を飛び回る事に・・・。本当に人遣いが荒い・・・。
王国の制裁を恐れる人々は多かった。
ギルドと連携して、親族以外に制裁が至らない様に根回しをする。
そして親族を二十人ほど乗れる様に改良した籠に載せて運ぶ。
計四つの村を二回ずつ、一日で八往復もする羽目になった・・・疲れた。
「帝国領の王国に一番近い村に話を通しといたから、とりあえずそこを目指すといい」
アルラが有能すぎる・・・。
「タマモに相談して食料を集めといて貰っていい?お金はちゃんと払うから。どうせみんながちゃんと働く様になれば税金で回収できるし」
国家に必要な四つの要素。
一つ、領土。これは公国から奪い取った。
一つ、政府。始まりの三十人を中心に急速に基盤が今まさに創られている。
一つ、外交能力。ギルドとの繋がりがこれを可能にする。そして公爵、皇帝とも・・・。
そして最後の最も重要な要素、住民。それが今、また急速に集まろうとしている。
アオナ聖教国は、この世界一の国になろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます