第36話 夕日の残滓(受付嬢は悪くないと思う)

 黒竜の問題が解決した事をギルドへ連絡する為に、アオナ達は王国へと向かった。

 そしてギルドの受付嬢に話しかける。


「黒竜倒しました」

「ちょっと何言ってるかわかんないです♪」


 受付嬢はアホの子をあしらう様に言っていた。そりゃそうでしょう。


「はい。黒竜です」


 アオナはラッドを受付カウンターに置く。


「どうも〜♪」


 笑顔で受付嬢に手を振るラッド。


「可愛い猫ちゃんですねぇ♪ペット自慢をしたければ広場にサーカスがあるのでそちらへどうぞ〜。精神異常の鑑定は教会で受け付けていますよ〜」


 信じてもらえなかった。


・・・


 結局、そのままギルドを後にしたアオナ達。


「ラッドの真の姿を見せて阿鼻叫喚にしてやればよかったかな?」

「真竜討伐なんてクエストにすらなってないから行くなら国王の所だね。行く?」

「いかない」


 結局、放置する事にした様だ・・・。


・・・


「今から帝国に向かうのもしんどいし今日は王国でゆっくりしようか」


 空は夕焼けの様に朱に染まっていた。赤、青、緑 、3色の太陽。

 それが互いに重なり、各々の大きさが変化し、強弱により空の色が変化する。

 基本は地球と同様に青だが、稀に他の色に染まる。


 その様に創った。


「綺麗な夕日だね・・・私の知ってるのとは少し違うけど。でもどこかで聞いた事のある様な・・・?いや・・・ないか・・・」


 どこか懐かしそうに、そしてもの寂しそうでありながらも・・・その目はどこか強く生きる意志を宿していた。それになぜか私は・・・ホッとしていた。


 世界を渡ると人は、大切な人との記憶を失う。それは私の能力の及ばない、きっと魂に刻まれたシステム。それは・・・永遠の楽園を阻止する為ではないだろうか・・・?


 それは実現してはいけない夢だ。


 『実現しない願い』だ。


 それが存在するなら、存在するのだと知ってしまったら・・・


私はそこを目指してしまう。


 今を生きる事を失う。


 それはダメだ!決して受け入れてはいけない!

 夢の中だけで存在し、そっと魂に想いとして蓄積され生きる意志を与える。


 精一杯に生きたその先に・・・


*******


「まだ少し夕飯までには時間があるし、露店を回ろうか。掘り出し物もあるかもだし」

「いいね♪アーティファクトがあれば回収したいし」

「串焼き食べたいワン♪」


 魔物を従える人間なんてまずいない。

 バレれば騒ぎになるので二人には隠蔽の魔法を施している様だ。

 いつもの様に露店を回っていると一つ、ショボいけどアーティファクトを発見した。

 そこで一つの出会いがあった。


 幸せをすくい取ると言われるさじ。『魔法のスプーン』。

 それがもたらす効果はとても些細なものだった。

 しかし、それは使い様によってはことわりをも変えるものだった。


 不思議なものだ。私は想像できるモノを創造できる能力を得た。

 それは想像できないモノは創造できない。しかし、私の想像するキャラクターは私の想像を超えて、認識できる範囲よりも深く潜っていく。


 まるで回したルーレットがどこに止まるか分からない様に、サイコロを振る様に・・・。

 賽を投げたのは私だ。しかし、予想を超えて物語は広がる。


 魔法のお守りアーティファクトはまさにその一つだ。私はあれらの魔道具をゼロからは創れなかった。

 複製は出来るので、あれらの存在は私の能力を上げたとも言える。


 魔道具は同時に魔力を通す事でリンクする。複雑に絡み合う術式。

 ある種のバグから生み出された技術。


 魔法のスプーンは記憶を掬い取るアーティファクトだった。

 それは本来、生者には使えない。そしてそれは本来、正確に認識出来ず感覚としてのみ集約されて伝わる。それは想いとして・・・



 私はこの時まだ、この『魔法のお守りアーティファクト』が、

この物語のキーアイテムなのだとは思いもしなかった。



 露店を巡る中で出会った一人の男。彼の名はレイル。

 彼は近々、行われる大規模な帝国との戦に駆り出される予定らしい。

 出発は三日後。彼には一人娘がいた。

 その子の名前はレイン。幼い娘を一人残し、戦場へ向かわねばならない男。

 行かなければ、男は国を追われる。強迫観念による一致団結。

 洗脳とも言える帝国への憎悪。


 黒竜の出現により、もう後がない王国は今回ついに決死の覚悟での進軍を行う。

 その命が尽きるまで帝国へ突き進む。


 何が彼らをそこまで掻き立てるのか・・・。

 そこには、様々な想いと思惑と・・・悪意が渦巻いていた。


 レイルは、亜人に愛する人を奪われ・・・亜人であるエルフに救われた。


 そのエルフは彼に『魔法のスプーン』を授けた。


「こんな戦争・・・間違っている。こんな戦いは・・・」


 レイルはアオナに願う。


「娘を・・・レインを預かって貰えないか・・・?」


 出会ったばかりの若い女性に突然、お願いできる様な事ではない。

 しかし、レイルには他に手段がなかった。それ程に切羽詰まっていた。

 男が渡せる報酬は『魔法のスプーン』しかなかった。

 それは愛する妻の形見とも言えるモノだった。

 それでもレインの命には勿論、変えられない。

 それに、そのアーティファクトは男にとって役割を終えていた。

 

 そして、キーアイテムはアオナに渡る。


 男はアオナを信じた。そして・・・預けようとした。

 もう彼の手には戻らないのだと知っていて・・・それでも・・・。


 王国は帝国に敗北する。実は明確に分かっていた。

 男はそれを知っていた。彼を救った森に住む亜人は全てを知っていた。


 しかし彼は知っていても、その戦に赴くほかなかった。

 国が、民が、常識が狂っていた。男は正常だった。

 だが、抗う力を持っていなかった。民が皆、それを持ち合わせていなかった・・・。


 アオナは決意した。

 そして、まず向かう場所として・・・そのエルフに会おうと思った。


 森の魔法使いが錬成した『魔法のお守りアーティファクト』。

 古代文明を知る生き残り。

 人族の森に住む長命のエルフ。高度な技術と知識を持ち森に潜み戦況を把握する人物。

 彼女は真実を知っている・・・そんな気がした。


 しかし、二歳の赤子であるレインを連れて回る訳にも行かない。

 そしてツサーツァまで戻る時間もない。そんな事をしていたら戦が始まってしまう。


「出発までには戻るからもう少しだけこの街でレインと一緒にいてあげて、私は森の魔法使いに会ってくるよ。場所は知ってる?」

「実は、これはギルドから口止めされているんだが・・・森のそのエルフはギルドと繋がりがある。ギルドの通信魔道具も彼女が創ったらしい。場所は隠蔽されていて俺が出会えたのは本当に偶然の幸運だったらしい」


 レイルは正確なその場所を把握していない様だった。


「そっか。じゃぁ、ギルドで聞いて行く事にするよ」


「レインの事を頼む・・・俺はどうなってもいい」

「戦争は私が終わらせるよ。貴方はその娘を自分で育てるんだから貴方はどうなってもよくない」

「逃げればそれこそ死刑だぞ!?」

「それも大丈夫。だから三日間、ちゃんと無事でいてね。魔法のスプーンのお代は払うからそれで暫く生活には困らないでしょうし」


 レイルは黙って頷いた。アオナはいつもの通信機能付き腕輪をレイルにも持たせた。


・・・


 森の魔法使いのエルフの事を聞く為に、アオナ達はギルドへと向かった。

 そしてギルドの受付嬢に話しかける。


「赤いローブを着た魔法使いの女神アオナです」

「ちょっと何言ってるかわかんないです♪」


 受付嬢はアホの子をあしらう様に言っていた。そりゃそうでしょう。


「はい。フェンリルドラゴンと建国の証明書です」


 アオナはヒスイと公爵様に貰った建国の証明書を受付カウンターに置く。


「どうもワン〜♪」


 笑顔で受付嬢に手を振るヒスイ。


「・・・」


 受付嬢はフリーズしていた。




***次章予告***


「この世界に来た本当の理由を思い出して!」


  「アオナはもう大丈夫だよ。これしか方法がないんだ。だから・・・お別れだ♪」


 神様に気付かれる訳にはいかない・・・気付かれてしまったら・・・対策されてしまう。

 そうしたら、きっとあの未来には辿り着けない。


    僕は協力者だ。黒幕は・・・他にいる。


 魂は巡る。またきっと・・・出会えるよ♪


「強く惹かれあった魂は、世界を超えても再び引き寄せ合う。前世での僕らはどんな関係だったんだろうね♪」


    「アオナは神様になりたいの?」


「嫌だワン!僕はアオナの従者がいいワン!!」


 パズルのピースがついに集まった。ついに、世界は・・・繋がる!


「転移先の安全確保機能をわすれるなあああああ!!ちゃんとデバックをしなさい!!」



 次回『番外編 魔法のスプーン【証と匙】』



 そして、第四章 ラッド『世界を繋ぐ物語』へと続く・・・

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