第35話 力の責任はどこまでも・・・。vs黒竜
「その堅苦しい話し方、やめていいよ?」
バレイ公爵との話し合い時の事。
「一国の王となられたのに、それでは差し支えもあるでしょうに・・・」
「いいよ。私は堅苦しいのは無しの自由な国を目指すから」
「それは茨の道だがな・・・」
彼もまた理想は描いていたのだろう。しかし、上手くは行かなかった。
それ程に治世とは難しい。神ではないのだ。
この世界では、神ですら・・・。
だって私は無理だし♪
・・・
それから彼女の建国は始まった。
と言ってもやる事は同じ。今まで使っていた馬車より大きな籠を用意して、一回で10人以上の人を拐ってくる。まぁ、拐うと言っても合意の上での救済だった。
生活水準の低い者や後遺症を持つ者、不遇な者達を中心に・・・
白銀の碧眼竜にまたがり、苦しむ人々に救済を与える赤いローブの女神アオナ様。
瞬く間に噂は広がり移民は急増する。
公国はおろか、王国から聖教国を目指す者まで現れ出した。
しかし、それは王国の弱体化である。そう、帝国との均衡が・・・崩れる。
更にそこに黒竜が動き出したと言う一報が王国に入る。
王国は・・・このままでは、帝国に敗れる。
アオナは動き出した。
この間に二ヶ月もの月日が流れていた。
アーティファクトの魔道具を積極的に集め、それを駆使して国は繁栄する。
あれは危険な代物ばかりだ。それを理解しているラッドが進言した。
用途不明の物が多く、捨て値で様々な形で流れているのを回収していく。
マナは税も含めて潤沢だった。魔物も相変わらず刈り取りまくっていたし。
魔道具の中には魔法と違い、変換していないマナで実行出来る物も多くあった。
潤沢なマナは国を飛躍的に豊かに、強く大きくしていった。
急速な成長。好景気の循環。国は初期メンバーを中心に見事に統率されていく。
初期メンバーのアオナへの忠誠心は強固なものだった。
皆、命を救われたのだ。そして、アオナは彼らを信頼した。
魔法の知識も与えた。それは生きる力になる。各々が望む特徴的で強力な魔法の発現。
強い望みは力になる。
アオナ聖教国は、アオナを抜きにしても強い国になっていく。
この時点では、まだまだ発展途上ではあったが・・・。
アオナは王国の救済へと動き出した。中継地点として公爵城により一泊。
その際、バレイ公爵と対話した。
「やはり、こうなったか・・・」
「予想通り、だったみたいね。それは王国の弱体化の事?」
「強大な力の元に集う、甘い理想の国。誰もが望み民は流れる。強い力には、それ相応の人が集まるものだ。そして、それは当たり前に今の均衡を壊す。別にアオナ様が悪い訳ではない。強いて言うなれば弱い我々が悪いのだ」
それは諦めに似た国民への謝罪。生真面目な人だ。
「戦争を止める方法はあると思う?」
「憎しみの連鎖の根はどこまでも深い。そう易々とは消えはしない。殺したから殺され、
正義の名の下に平和を望む者が巻き込まれ失われ、より多くを残す為に切り取られた
戦争自体を望む者など安全な場所で営利を得る事の出来るごく少数派だ。
それでも戦争は無くならない。
一度、始まってしまえば自己を正当化する為に、自己を守る為、国民を守る為、家族を守る為、様々な理由が人を殺す理由になってしまう。
本来それが許される理由など、それに対して取れる責任など、ないのだとしても・・・。
「それを根こそぎ薙ぎ倒す強大な力にたった一つだけ心当たりがある」
バレイ公爵はアオナの事を真っ直ぐと見つめる。
「分かってるよ・・・。まずは黒竜を倒す。その後、帝国の話を聞いてくるよ」
「国王には会っていかないのか?会いたがっていたぞ?」
「急いだ方がいいでしょ?今は帝国が優勢で王国が劣勢。戦争をまずは一時的にでも止めるなら帝国の手を止める必要がある」
「そうだな・・・刻一刻と憎しみの連鎖は進む。少しでも早い方がいいだろう」
・・・
まずは黒竜の討伐。油断せず
ヒスイに乗ったままギルドの最新情報の位置を目指す。
黒竜は真竜だった。ヒスイ程ではないが強大な力を持ち、王国、帝国共に滅ぼせる程の。
王国と帝国が手を取り立ち向かえば、あるいは討伐出来たのかもしれない。
しかし、それはあり得ない事だった。
「今回は油断しないよ。先に多重干渉遮断を展開していく」
『ギィャアアア!!』
かなり距離のある位置からの威圧効果のある雄叫び。その次の瞬間には正確に上空にいるアオナ達に向けて最大出力の『真竜の息吹』を放った。
ヒスイはそれを掻き消す!
「ビックリしたぁ!?」
『慎重な奴みたいだね。感知系の魔法が得意そうだ』
「作戦通りにいくよ」
「了解ワン♪」
そのまま接近するとその姿が肉眼でハッキリと確認出来る距離に。
その姿は黒い毛に覆われた獅子を彷彿とさせる姿だった。
背中にはヒスイと同様に光り輝く翼。真紅の目がこちらをしっかりと捉えていた。
「やっぱり爬虫類というよりは獣っぽい姿だね」
『真竜は最も適した姿を既存の生物を合成する様に生成するから。しかし、なかなかカッコいいね♪あれは僕に欲しいな』
どうやらラッドはあの身体を貰うつもりの様だ。
テイムの射程は八十メートルまで伸びていたけど、正直言ってその距離ではまともに照準が合わせられない。更に黒竜は警戒しており常に動いている。
ヒスイは地面に降り立ち黒竜と戦闘を始める。三メートルの体躯のドラゴンがぶつかり合う。怪獣大決戦さながらである。
『スピードは相手の方が上手かも。パワーはヒスイの方が強いね』
「このままヒスイに任せても勝てそうだけど・・・」
そんな事を話していると黒竜がアオナの方へ!
どうやら弱そうな所を狙った様だ。
しかし・・・
「やっぱりこうなったか・・・」
『作戦通りだね♪』
「雑な作戦だけどね」
黒竜の攻撃は
そして、ゼロ距離からの・・・
「
黒竜は警戒もしていた。しかし、理不尽な即死攻撃までは予測出来なかった。
それは例外なく・・・刈り取られた。
・・・
「うん、やっぱりいいね。この身体♪」
身体のサイズを小さくしたその姿は、タテガミが少し残る翼の生えた黒猫だった。
真紅の目、漆黒の毛並みの猫真竜と碧眼白銀の犬真竜を従える赤いローブの魔法使い。
「これはこれで・・・ありだね。モフらせて!」
「ラッドばっかりズルいワン!」
「ここはモフモフパラダイスだぁ!!」
アオナがあまりに上質な毛並みに挟まれて半狂乱状態でキャラ崩壊していた。
***神界***
「アオナ聖教国は順調そうね♪」
「急速に発展し過ぎていて歪ですけどねぇ〜」
「各地に散っていたアーティファクトを然るべき所に集約してくれて本当に助かりました。暴走すると色々と面倒なモノも多かったので」
「しかし、真竜でも全く歯が立たないね・・・」
「そもそもに神と同等の存在ですしぃ、どうこうなる方がおかしいのでは?」
「まぁ、それもそうね♪」
「それにしても黒竜って以前にアーティファクト文明を滅ぼした奴と同じでしたねぇ。進化が収束しちゃったんでしょうか??それともヒスイの影響?ん〜ちょっと違和感」
「そう?まぁ、システムは自然発生したのを利用してるからよく分かってないのよねぇ」
「神様も知らないシステムとか・・・神とはなんぞやぁ・・・」
「それを言ったらアイもメイも何考えてるか分かんないし♪神なんて飾りよ」
「まぁ、基本は干渉しませんし最近はシステム調整も落ち着いてきましたから」
「そろそろ大規模修正パッチ入れちゃう?」
「やめれぇ〜〜!!」
どうやら上手く黒竜はアオナさんに渡った様ですね。黒竜に仕込んだメッセージは無事あの子に届いた事でしょう。
あの人の意志を継いで、必ずパズルを完成させる。
神を
まだ足りない。そして、タイミングも重要だ。
舞台を整える。後は彼女達が、彼女達の意志が結びつき自然と完成へと進んでいくはず。
まだ気付かれる訳にはいかない。
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