第34話 番外編『???の過去のカケラ』冬の大三角

 私達は、光で会話する。

 微弱な光の変化を0と1にして無数に重ねる事で・・・。


 490光年もの距離。得た情報は490年前のモノなはずなのに・・・。


・・・


「冬の大三角って知ってる?」


 一つの星が言った。


「えっと、バルログとサガットとベガだっけ?」


 バイソンが泣いているぞ?

 ベガは夏の大三角だ。


「ベテルギウス、プロキオン、シリウスよ!」


 もう一つが呆れて言う。

 なぜ会話が成り立つのか?


 途方もない時間を掛けて、互いが互いをインストールしたのだ。

 各々の中で同じデータが展開されて、あたかも同じ時間軸にいるかの様に・・・。

 

 そして、出来上がった一つの仮想時間軸の中で無数の星が会話する。

 それぞれが持ち寄ったデータが仮想時間軸に干渉していく。


 やがて、星々は自分が星である事を忘れた。


「冬の夜空に一際あかるく輝く、アレとアレとアレの事よ」


 体の芯まで凍える様な寒空の下、一つの星が星を見上げて指を差し説明する。


「へぇ、目立つね。というか星、詳しいんだ?」

「うん。何だか不思議じゃない?」

「何が不思議なの?ただの星でしょ?」


 三つの星が、光の強弱で戯(たわむ)れる。


「ただの星って、地球だってただの星よ?」


 地球という、奇跡の仮想時間軸。

 その存在は物質のくくりすらも成り立たない。


「見上げた所で、ただの光だしなぁ・・・」


 星々によって創られた複雑なネットワーク。

 物質の定義すらも、星々の蓄積データを統合するシステムだ。


「星座とかもあるわよ?冬の大三角はこいぬ座、おおいぬ座、オリオン座の一部ね♪」


 星々は、星座の様にコミュニティを作り形を成す。


「見えないんですけど・・・あれのどこが犬なの?」


 星々は、ついには仮想の中に一つの新しい『何か』を創った。


「あれが子犬の頭でプロキオンが体ね」


 それは、沢山の星々が創った子供の様な・・・。


「2個の点で子犬って・・・雪だるま?」


 星々の意志の中に溶けるイレギュラー。

 それは一体、どんな意味を持つのだろうか?

 星々の創った仮想時間軸は、仮想ではなくなった。


 たった一つの小さな小さな、星々が持ち寄ったデータではない、データではないナニカ。


「そこは想像で補いなさいよ!」


 三つの星は、それで戯れる。


「しかし、バス来ないね・・・」

「来ないねぇ・・・」

「寒い・・・」


 とあるバス停、三つの星が空を見上げていた。

 星座をなす様に寄り添う三つの星。


 それはどんな物語を創るのか・・・。


 仮想ではなくなったソレを、

星々は星である事を忘れて、生きていく。

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