第33話 アオナ聖教国の始まり。口ずさむ歌はどこまでも・・・
「私は別に戦う気はないよ」
アオナは改めて対話を試みる。
「すぐに会食の準備を進めさせて頂きます。加えて最大級のもてなしをさせて頂きたい」
改めてバレイ公爵はようやく対話の意思を示してくれた。
『見事なてのひらがえしだね。裏があると思う?』
今更だけど従者とは念話で話が出来る。アオナはラッドに問いかける。
『機嫌を損ねれば国が滅ぶからね。そりゃ
『毒とか入れられないよね?油断させてザックリとか・・・』
『心配なら釘を刺しとこうかな』
「言っておくけど、変な事は考えないことだね。ヒスイはアオナが居るおかげで大人しくしてるけど、もしアオナに何かあったら容赦なく人類を滅ぼすよ」
「そうだよ。アオナを傷つける奴は僕が許さないワン!」
『あれ?ラッド喋れる様になったの?それに私、不老不死だよね?ヒスイは人類を滅ぼしたりしちゃダメだからね!?』
『魔道具で喋れる様にしたよ。実際はアオナは死なないけど、死ぬほど痛いのは嫌でしょ?さっきの戦闘で二度ほど経験したけど僕は出来れば二度とごめん被りたいね』
『確かに・・・アドレナリン、ドバーで何とかスルーしたけど左腕持ってかれただけで意識が飛ぶほどきつかった・・・むしろよく耐えたと我ながら思うよ・・・ラッド、無理させてゴメンね』
ラッドがバレイ伯爵に告げた言葉は、もしアオナを倒してもむしろ事態は悪化する事を告げていた。そして、人類にヒスイを倒せる者はいない。アオナを除いては・・・。危害を加える事自体が間違いなのだ。
「肝に銘じておきます」
バレイ公爵には、無事伝わった様だ。
・・・
その後は、丁重なもてなしがアオナ達に成された。
「この世界に来てから初めてお風呂に入れた。生き返るわぁ〜・・・」
アオナは溶ける様に湯船の中に肩まで浸かる。
思えばずっと、気が張っていたのかもしれない。
それがお風呂によって少しだけ解かれていく。
アオナは思わず口ずさむ。
〜〜〜〜〜♪
Dear. “ i “.
Can you forget me?
I hope you will be happy.
(私を忘れてください。貴方に幸せになってほしいから。)
I will be happy with sadness.
I never ever forget you.
(私は哀しみを抱いて幸せになる。貴方を決して忘れない。)
From. “ i “
〜〜〜〜〜♪
『日本で聞いた曲?』
「あれ・・・?どこで聴いた曲だっけ・・・?」
何か強い違和感を覚えた。
アオナはふと恐怖を覚えてたわいない会話で誤魔化した。
「そう言えばラッドって雄なの?」
『基本は精神の存在で体はテイムの度に入れ替わるねぇ。どっちと言われても困るかな』
「それもそっか。ヒスイも?」
「僕はアオナが雌だから雄が良いワン♪」
「それは・・・どうなんだろう?でもありがとね♪」
アオナはラッドとヒスイを丁寧に洗ってあげる。
それを二人は気持ち良さそうにしていた。
アオナにはずっと引っかかっていた事があった。
何か大切なモノを忘れている気がする・・・。そんな感覚がずっとあった。
それは、日本にいた頃から、そして幼少の頃から・・・。
両親に捨てられた彼女はどこか感情が希薄だった。
それが何なのか分からず、ただずっと探していた。
何か大切なモノを失って、それでも私は必死で何かを探していた。
自分の体に何かとても強い違和感を感じた。たわいない会話の中にも・・・。
そうだ、これはずっと私が感じていたものだった。
ここに来る前の記憶はある。私は『悠木 青菜』だった。
だった?いや、今もアオナだ。
なぜそこに違和感を感じるのか?
何かが噛み合わない、そんな感覚をずっと抱いていた。
それがこの世界に来てから、よりハッキリした・・・そんな感覚があった。
・・・
入浴を終えた後、食事の席での対話となった。
「この度は無礼を誠に申し訳ございませんでした。如何様にも償いをと存じますが何をご所望でございましょう?」
バレイ公爵は、もう完全に服従の姿勢だ。そうしないと人類が滅ぶのだから仕方がない。
「ここに来る前に、公国を見て回った。重税に苦しむ街、牧歌的に質素な生活を送る人々、
領主の搾取で苦しむ街、意欲的に助け合い発展する村」
アオナはこの世界に来てからの13日間で見てきたこの世界を語る。
「公爵様はこの現状をどう考えているの?」
彼女の言いたい事は、もっとしっかりした統治を望むものだったのだろう。
しかし・・・それは、日本を生きた偏った意見だった。
「どう、と申されても、民を守り、臣を信じ、
それは間違っているとは言えなかった。むしろ正しい。
「ある領主は横領をしてたよ?」
「・・・悲しい事ですが、私の耳にまでは届いていないようですな」
「積極的に暴きには行かないの?」
アオナは放置していた事を不満に感じている様だった。
「臣を信じ、民を信じる事が統治者のあるべき姿だと存じます。民が強くあり、その声を私のところまで届けるのを私は信じて待つのが努めだと」
「手助けはしないの?」
「然るべき法は敷いています」
「それが不十分だから不正が起こっているのでは?」
「完璧な法など存在しません。民が強く育つ事を願い見守る所存です」
話は平行線だった。どちらかが間違っている訳ではない。ただその答えは未だ人類が誰も導き出せていないのだ。
「アオナ様は自らの統治をお望みか?」
不意に投げかけられた問い。アオナは・・・
「望んではいない・・・」
「しかし、力ある者が上に立つのは責務ではないでしょうか?力ある者が力なき者の下につくのは理に反する」
「必ずしも力量差で上下が決まるものではないでしょう?」
「いえ、支配という点に置いては、広い視野で総合的に力量のある者が上に立つ。立つべきだと私は考えます」
「・・・」
「貴方様が私の支配下にいるのは、間違いだ。そして貴方様は決して私の支配は受けないでしょう。受ける理由がない。ならばこそ、私は貴方様に服従し支配される事を受け入れるしかないのです!であれば・・・貴方様に忠誠を誓う者がいる程に、貴方様は正しく上に立つ必要が・・・責務がある!!」
彼のいう事は・・・正しいのかもしれない。しかし、そうなると彼女の居場所はない。彼女より強い者などいないのだ。ヒスイの戦闘力。ラッドの知識。そしてアオナの魔物を確実に狩る能力。彼女の居場所は彼女自身で作るしかない。
彼女がその力の責務を果たすには・・・国を成すしかなかった・・・。
「ただ、人が抱える干渉範囲は当事者である本人にしか裁量できませぬ。貴方様が一人で国を成すと言うならばそれも一つのあり様と存じます。しかし、貴方様は既に疑問を持たれているご様子。ならば抱える干渉範囲に見合った規模の責務を背負う必要があられるのではございませんか?」
アオナは既に、この世界で沢山の人と出会い救ってきた。それを守りたいという気持ちもあった。それを成すには・・・自分の縄張りを主張する必要があった。
彼女は・・・国を作るべきだった。
「私が最初に関わった村、ツサーツァの村を貰うわ。そこを中心に私は国を成します。フウェンの街は公国との接点となるでしょう」
「ツサーツァとフウェンの領地はアオナ様に譲渡させて頂きましょう。国王へは私から正しく伝達させて頂きますので手出しをする様な愚かな真似はせぬでしょう」
「フウェンまでは求めてないよ?」
「ギルドより連絡は受けております、赤いローブの魔法使い殿。レイス男爵の悪事は聞いておりますよ。そして息子のルイスは立派になっている様で」
「知ってたんだ。ルイスとは会った事があるの?」
「あんなのでも男爵でしたから、面識はあります。不問には出来ませぬ故、干渉されるつもりならば支配下に置くべきかと。既に大きく関わってらっしゃる様ですし。タマモとオッサを抑えられるのは私としては痛手ですが、アオナ様との接点と今後の事を思えばお釣りが来ましょう」
「オッサはともかくタマモさんも接点があったんだね」
「あれは私の支配下ではありませんがね・・・」
ギルドの立ち位置は中立で全ての国に存在する。そのギルドの重要人物。接点はあれど、互いに支配関係にはない様だ。しかし立場はギルドが上にも見える。
こうしてアオナはツサーツァとフウェンを治める事となった。
税収がアオナに入り、ギルドへ申請する事で税率は変更出来る。
領主はルイスに変更。国名は・・・アオナ聖教国・・・。
「国に自分の名前って・・・イタすぎない?」
拐ってきた人達やオッサ、ルイスも交えて話し合いを行った結果こうなった。
基本的な統治はそのまま。税率は半分ほどに下がった。
アオナにも一応は収入は入る。人口が増えればそれなりになるだろう。
王国は煙たく思ってるだろうなぁ・・・。
ただ真竜の名前を出されれば飲み込まざるを得ない。
村と街の人々は、何ら変化なくただ税率が下がり生活が安定し、徴兵の心配がなくなった事になる。これは間違いなく・・・喜ばれる事態だった。
***神界***
「いや〜何とかなってよかった!」
「まぁ、死んでも復活する訳ですけど怒れるヒスイによる大・虐・殺♪が起こるところでしたしぃ」
「どうやらアオナさんは建国する道を選んだ様ですね」
「バレイ公爵がいい仕事をしたわね♪」
「何だか嬉しそうですね」
「そう?そう・・・かなぁ・・・」
「このまま戦争も止めてくれるといいんですけどねぇ〜」
「帝国と王国で均衡が取れていたところに聖教国という最強の勢力が現れた。無視は出来ないでしょうし、アオナさんも無視はしないでしょうから動きはあるでしょね」
「無理はしないで欲しいわね。この世界を楽しんで欲しいし♪」
彼女は間違いなく、彼女を特別視している。
強く結びついた魂。惹かれ合った魂は、引かれ合う。
そこに更に後押しする存在が加わる。
それはきっと・・・私もだろう。
パズルのピースが集まっていく。
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