第32話 公爵城での交戦!
一夜明けての公国首都。アオナは目覚めて朝食を済ませた後、すぐに公爵邸へ向かった。
「邸宅・・・と言うよりは、城?」
『どうやら旧文明の遺跡をそのまま中心にして首都を作った様だね』
隠蔽をかけて普通に侵入する。門番はスルー出来た様だ。
『相変わらずの不法侵入なんだね。公爵がどこにいるか分かってるの?』
「ん〜、玉座の間とか?」
『国王ではなく公爵だけどね。まぁ公国のトップだし似た様なものだけど』
公爵は王国の国王に仕えている。しかし独立した国としての運用も行なっている。
王国には徴兵に応じて人員は送っているが少数だ。税は多額のマナを納めている。
それは帝国との最前線に置いて王国が戦っているから。
この世界のあり様が見えてくる。
・・・
大きな、大きすぎる一枚岩、大理石で造られた壁。それは魔法なしでは到底、造る事が出来ないであろう事が容易に想像できた。そこには装飾として神の姿、その偉大な創世の瞬間が描かれていた。アオナは思った。
「似てないね」
『想像だからねぇ・・・』
私もそう思いますよ?
・・・
そのままアオナ達は公国の城の庭を進む。噴水に花壇、丁寧に手入れされた美しい庭園。
「・・・迷った」
『広すぎだね』
ガサッ。物音を立ててしまったアオナ。干渉遮断は全身展開すると歩行が出来ない。床との摩擦もなくなる。つまり・・・移動中の足音は消せない・・・。
「誰っ!?」
そこには一人の少女がいた。豪華なドレスを着た姿は一目で身分の高い人物だと分かる。
「ニャ〜」
『それは無理なんじゃないかな・・・?』
「諦めて和解を目指しましょう」
隠蔽を解いて姿を現すアオナ。
「はじめまして。公爵様との対話の為にお邪魔した魔法使いでございます」
嘘は言っていない。
「そうでしたか。姿が見えなかったのも魔法ですか?」
笑顔で質問をする純粋そうな少女、すぐに信じてしまった様だ。
少女の名はメーク、箱入りなのだろう。
好奇心いっぱいで様々な事をアオナに問いかける。アオナはそれに・・・適当に応える。
「私は無敵の魔法使いなのです♪」
「凄い!ドラゴンにお会いした事はありますか?」
「毎日、会ってるよ」
嘘は言っていない。ヒスイをチラリと見て答えた。
そして、アオナも色々と聞く。
「お父さんは公爵?どんな人?」
「そうだよ。お父さんは厳しいけど尊敬できる立派なお父さんだよ♪」
と、和気藹々と話をする。
「じゃぁ、私はそろそろ行くね」
「では、バレイ公爵様の所へご案内させて頂きます」
『誰っ!?』
それは剣士の様な男だった。そしてもう一人魔法使いの女性。
「メーク姫の前で荒事になる様な事は避けたい。場所を移して話したい」
少女に聞こえない様に男が言った。
「よくお姫様と話しているのを放っておいたね」
「その点に置いては、接触を許したのはこちらの落ち度だが様子を見る限り姫への害意は見られなかったからな。下手に刺激するよりは、と思った次第だ」
疑われているのは間違いない様だ。
少女を巻き込むのはアオナも本意ではなかったので男の指示に従う。
そして連れて行かれたのは城の内部、庭の一角にある騎士団の修練施設の模擬戦闘場。
「さて、侵入者の怪しい魔導士よ!どの様な目的で参った?」
男はノリノリで剣を向ける。
「公爵様と話がしたいだけだよ」
「謁見の予定は聞いていない」
「うん、だから侵入した」
『どう考えても向こうが正しいね・・・』
「悪いが拘束させて頂く!」
男がアオナに向かって剣を振るう。それはアオナの手前で止まる。物理エネルギーが消されるフィールドをアオナは周囲に展開している。
「それは魔法かい?」
「わざわざ手の内を晒すバカはいないでしょ」
「それもそうだな!」
男は一度、距離を取る。
声は届く。それはなぜか?実はヒスイを通して声を届けている。
「ストーンバレット!!」
拳大の石つぶてがアオナを襲う。しかし、当然アオナには届かず地面にポトリと落ちる。
「サンダーボルト!」
魔法使いの女性が電気魔法を放つ。当然無駄だ。
「エネルギーの遮断・・・か?」
どうやら馬鹿ではない様だ。常に動きながら四方様々な方向からつぶてを放つ。
それは全て無効化される。
「ロックウィール!!」
男がそう唱えた瞬間、アオナの正面に岩の壁が出来た。アオナは一切動いていない。
男は走り回り動きながら・・・アオナを閉じ込めた。
どうやら効果範囲を探っていた様だ。脳筋に見えて頭が回る。
そして最後に真上からの巨大な岩を落とした。そう、男が狙ったのは・・・生き埋め。
「どうしよう?これは想定していなかったよ・・・あ」
「
アオナの空間収納の容量は四十メートルかける四十メートルになっていた。
周囲を覆っていた岩を根こそぎ仕舞い込んだ。アオナを生き埋めにするには、この程度では不十分だった。
「無理か・・・」
男の動きが止まった。その隙を見てアオナは男をプリズンで捉えた。
「実は私、攻撃手段ないよね・・・」
アオナは日本語でラッドに溢す。
『まぁ、その辺は僕らがやるから気にしなくていいよ。そろそろ目的を話すなりなんなりをしたら?拘束するなら全員を麻痺させるよ?』
「反撃してこないな。何を企んでいるんだ?」
「最初から話し合いが目的って言ったはずだけど?」
その瞬間だった・・・。
『危ないっ!!』
一瞬の事だった。
空高く太陽を背にした、目眩しもかねた空からの空撃!
それは黄金の豪華な装飾に包まれた重厚な鎧を纏った大剣の大男。
「
大地を抉る大剣が振り下ろされる。
咄嗟に気付いたラッドは・・・その身を犠牲にしてアオナを少しだけ突き飛ばした。
ラッドの肉体は完全に引き裂かれ・・・アオナは左腕を・・・失った。
「ラッドっ!!?」
アオナの悲痛な叫びが響く!
『僕は大丈夫!それより
「
謎の大男の追撃が入るが今度は完全に遮断する。
『ごめん油断してた。僕の判断ミスだ。最初から多重で展開するべきだった』
「無事なの!?」
『意識は杖に戻ってる。昨日のドラゴンの身体に意識を移して貰える?』
「分かった!」
アオナは空間収納から二階建ての建物よりも巨大なドラゴンの身体を出し、ラッドの意識を移す。
「
ラッドの魔法でアオナの左腕が完全に復元される。
「竜を従えるか・・・何者だ?だが関係ない。公国の敵は排除する」
「手加減できる相手じゃないね・・・悪いけど全力で行くよ?」
「出来れば殺さないで」
「ふ、殺しを嫌うか・・・青いな。全力であれば勝機もあっただろうに」
謎の大男はドラゴンのラッドと互角に渡り合う。
「
「ダイル、グランっ!!」
大男の前に二人の大楯を持った重騎士が防御姿勢をとる。
「
「
それは竜の咆哮をも防ぎ切った。アオナの相手は元より統率の取れた一国の精鋭中の精鋭。最強を誇る公国騎士団全てだったのだ。
無数の魔法がアオナを襲う。ラッドもこの数が相手では捌けない。
二重展開をしているアオナが使えるのは今は単体魔法のみ。
最初の男の行動。全て時間稼ぎだったのだ。今のこの状況を作り出す為の・・・。
干渉遮断の性能、強度。拘束に対する対応、何よりも・・・殺す気がない性質。
全て見透かされていた。追い詰められるアオナ。
「くっ!このままじゃ・・・でも・・・」
しかし、彼女には切り札があった。
『アオナ・・・腕・・・血が・・・ユルセナイ・・・』
碧眼が怒りに染まっていく・・・。
抑えていた体躯が元のサイズに戻っていく。その体は怒りに震えていた。
理不尽な攻撃。対話に応じない姿勢。引き裂かれたラッドの肉体。
何よりも・・・アオナを傷つけた事。
アオナは彼に攻撃を禁じていた。彼の攻撃は理不尽に全てを踏み躙る。
しかし・・・限界だった。
彼らは・・・ヒスイの逆鱗に触れたのだ・・・。
『許さないっ!!』
ヒスイの怒りの叫び。騎士団が凍りつく。威圧魔法の効果もある様だ。
『
それは深く冷たく・・・どこまでも落ち着いた声だった・・・。
『
「殺さないで!!」
「
咄嗟に展開出来たのはシングルのプリズンのみ。
それではヒスイのブレスは遮断出来ない。
殺してしまう。そう思った瞬間・・・
ラッドはドラゴンの身体全てを費やし突進を行った。
ヒスイに向かって凄まじい勢いの様々な魔法を多重展開し、全てのエネルギーをその攻撃の阻害へぶつける。ラッドの身体は削れる様に消滅していった。
ラッドの決死の身をていした足掻きは・・・ほんの僅かに・・・その攻撃を上へと逸らした。ヒスイのブレスは・・・城壁を抉り森を焼き・・・
公国が背にする巨大な岩山を抉り取った。
「真竜・・・だと・・・?」
ヒスイの怒りは鎮まらない。
「大丈夫!私は大丈夫だから・・・だから・・・落ち着いて」
アオナはヒスイを抱きしめた。
ようやく、ヒスイは僅かに理性を取り戻した。
『僕は・・・?だって・・・』
「うん、大丈夫」
アオナは優しく語りかける。
「大丈夫だから、ありがとうね。もう心配しなくても大丈夫だよ」
ラッドが治してくれた左手で優しくヒスイを撫でる。
空間収納から予備のエルダーラットの身体を取り出しラッドを移す。
『ふぅ〜、危なかったね。でも誰も死ななくて本当によかった。やっぱりこの身体が一番しっくりくるなぁ♪』
ラッドはおどける様に軽く冗談の様に振る舞いながら新しい身体を確認していた。
「もう油断も容赦もしない。もし、まだ攻撃してくるなら・・・ヒスイも戦闘に加わって貰う。それはこの国の消滅を意味するよ?まだやる?」
アオナは本気だった。これで対話が無理ならそれも辞さないと思った。
「真竜を従える・・・そなたは『神』なのか?」
ヒスイのブレスを見た謎の大男は・・・戦意を失っていた。
それほどの力量差があった。それを理解できる程に、男は強く聡明だった。
「神ではないよ。神はこの世界に干渉する気はないみたいだし」
「その口振は・・・神の使徒様か!?」
『神の使徒様ってなに?』
『この世界では神様に使命を与えられた神に会った事のある人だね』
『神様には会ったけど使命は貰ってないよね?』
『もう、神の使徒ってことにしといたら?その方が都合も良さそうだし』
「まぁ・・・そんな感じかな」
アオナは、そういう事にする気になった様だ。
私的にも世界を良くしてくれれば助かるし、使徒って事でいいんじゃないかな♪
「ご無礼をご容赦下さい・・・。どうか我が命でおさめては下さらぬでしょうか・・・?」
男は丁寧に服従の姿勢をとってみせた。
『やっぱりそうゆうタイプだったかぁ』
「どうか民草には慈悲を・・・あなた様に危害を加えたのは、私。『バレイ・ショークイン』の独断にあります」
『ん?ええええぇぇ!?公爵本人だった!!?』
公国最強の戦士であり、歴戦の英雄。
この戦闘力、謎の大男がむしろバレイ公爵でない理由がなかった。
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